#25 土下座
現状、部屋の中心で土下座している、俺。
そして、その俺を挟むようにして緑ちゃんとカズが正座させられていた。
「なんで僕まで正座しなきゃならないんだよぉ……」
若干べそかいてるカズ。
確かにカズが正座する理由は無いのだが、やはり俺としてはカズには「私は悪いことをしました」と書かれた紙を貼り付けて正座していて貰いたい気持ちがある。間違いなく、これでもかって言うぐらいに似合うだろう。
「サツキサツキ」
「なんだよ」
隣のカズが何やらヒソヒソ声で話しかけてきた。
「そもそも何があったの?っていうか、その隣の子は誰?」
カズから飛んでくる質問。まだなんの説明をしてないのでごもっともな問いかけだ。
「あぁ……まずコッチの子は委員会の後輩の上岡緑ちゃんだ。んで何があったのかと言うとだな……さっき玄関でこの子とキスしてる所をここに居る全員に目撃された」
「キ……ス……?」
「しかもわりと激しめの奴」
「激しめ……」
「これまた濃厚で情熱的な奴」
「…………」
それを聞いたカズはゆっくりと立ち上がる――……。
……所を俺はカズの服を引っ張って止めた。
「待て、カズ」
「ちょっとサツキ、服を離して」
「だから待ってカズ」
「待たないけど?」
「おまえ、あちら側に行く気だろ?行かせねぇからな」
「イヤ行くけど?」
「カズ親友を見捨てるというのか?」
「サツキとの付き合いもこれまでだったという事だね」
「カズぅぅぅ……頼むよぉぉぉ……行かないでくれよぉぉぉ……俺の隣に居てくれよぉぉぉ……」
「ぐぬっ……!そ、そんな事言われたって……!」
「俺にはおまえが必要なんだカズ!頼む!ずっと俺の傍に居てくれ!」
「うぐぅ……わ、分かったよ……」
立ち上がりかけていたカズは再び腰を降ろした。よし、なんとか引き止めた。道連れ確保。
「兄さん、何を朝日屋先輩とコソコソと話しているんですか?」
「「はひっ!?」」
俺とカズ、2人揃ってビクリと体を震わす。涼花の冷たい声に背筋に冷たいものが走った。
「皐月くん。その人とも凄く仲が良いんですね……その方はどちら様ですか?」
「あ、あぁ……コイツは俺の親友の朝日屋夏雲だ。小学からの付き合いで、高校は別々だけどよく遊んだりしてる。まぁ悪友ってところかな」
「はい、どうも朝日屋夏雲です」
「これはどうも!私は白井聖歌って言います!皐月くんとは凄く仲良くさせてもらってます!よろしくお願いしますね!」
「ふーん……仲良くね……」
ニコニコと笑顔で自己紹介する聖歌ちゃんに対してカズは非常に不愉快といった視線を送っていた。
カズの視線の先には大霊峰。雲を突き破らんばかりにそそり立つ2つの巨大な山脈。対するは平原。戦力差は圧倒的だ。
「サツキ、僕この子とは仲良くなれそうにない気がする」
「嫉み乙」
「…………」
「あ、悪い!つい本音が!謝るから!無言で立ち上がって行こうとしないで!」
あちら側に回りそうなカズの腰に縋り付いて止めた。
「ついでに私も自己紹介しておこう。私は皐月きゅんの学校で生徒会長を務める鳥乃麻沙美だ。よろしく頼む」
「これはどうも……サツキ、僕この人とは仲良くなれそう」
堂々と胸を張る鳥乃先輩。その胸を見ながらカズは言った。
「胸基準で仲良くなれるかどうか判断するのやめよう?」
失礼極まる。確かに鳥乃先輩はカズとどっこいどっこいの胸してるけどさ。
「次は俺か?俺は鈴木火之迦具土神だ!」
「はっ……?ひの……?えっ……?」
「火之迦具土神だ。偽名でもあだ名でもなく本名だぞ」
「えぇ……カッコよ……いいなぁ……」
「カズ……」
マジで言ってる?マジで言ってるな……鈴木の名前をバカにする訳では無いがカッコいいか……?まぁ、ファンタジー的には確かにカッコイイか。
でもここ現代日本なんだよなぁ。
「無駄話はそんぐらいでいい?そろそろ本題に戻すわよ」
流れを断ち切る美春。
なんかこのまま有耶無耶にならないかと思ったが、そうは問屋が卸さなかった。
「上岡……だったわね。アンタは結局、皐月のなんなの?なんであんな真似したのよ」
「…………」
美春の容赦の無い詰問。しかしながら緑ちゃんは今だに口を開く気配は無い。沈黙を貫いたまま俯いている。
「流石の私もアレは看過できませんね。しっかりとどういう意図があったのか説明して貰いますよ」
続く涼花も一切の容赦も手加減もしないといった塩梅である。
「上岡さん。黙ったままではどうしようもありません。ゆっくりでいいので話してはくれませんか?」
聖歌ちゃんは優しげに促す。ここら辺は性格が出るよなぁ、なんて思った。
「あの様に見せつけるかのようなみだらな行為……くっ、これがNTRか……!これはこれで……いや落ち着け、私。それはいけない。しかし、あんな激しめの奴は私だって皐月きゅんとは……あ、いや、既に……ブツブツ」
だからその皐月きゅんってなんなのさ……鳥乃先輩は何か自分の世界に入ってブツブツと言い出した。やっぱりこの先輩ヤバイって!部屋から叩き出した方がいい気がするんだけど!
「まぁなんかしら理由はあんだろ?さっさとゲロって楽になれよな。たくっ……焦れってぇな」
埒が明かないと鈴木は不満をもらすが、鈴木に緑ちゃんを責めている雰囲気はあまり無い。だけど理由が気になるといった具合だろう。
「…………」
方々から責め立てられて、まるで針のむしろだ。
しかし、緑ちゃんはやはり黙ったままで、俺の服の袖を掴んだまま。
そんな緑ちゃんの手にギュッと力が込められたような気がした。
緑ちゃんは極度のコミュ障で人との会話に慣れていないし、接し方も相当な不器用だ。普段、接していてわかる。
そんな子がこんな状況でまともに話す事なんて出来るだろうか?出来るはずがない。
アレの理由は俺も気になる所ではあるし、あんな事をしてしまうのにはなんらかの理由はあったのだろう。そして、今、緑ちゃんはコミュ障だがとても良い子である。だから、その理由を話そうとはしてくれているはずだ。
でも話せはしないだろう。
話したくても話せない。人には人それぞれにどう頑張っても無理な事っていうのは存在している。
それを甘えだなんだ、根性が無い、度胸がない、なんで出来ないんだよ!と責め立てるのは俺は間違ってると思ってる。
それは見方によっては逃げてるだけかもしれない。
だけど、逃げなきゃ心が壊れるんだ。
「はぁ……」
ため息ひとつ。
小さく震え続けている緑ちゃん。俺はそんな臆病だけど可愛い後輩ちゃんをこのままにしておいていいのか?
答えは、否。
現状を変えるために覚悟を決めよう。
「大変申し訳ありませんでしたッ!」
俺は床に額を擦り付けて土下座した。
「せ、先輩……?」
俺の突然の奇行に皆が皆、押し黙る。
「えっと……実は……俺、緑ちゃんの弱みを握っていて、だな……それで、その……脅して、ちょいちょい呼び出して、エロい事を強要してました!そのくだりがさっきのアレです!
「は?えっ……?でも皐月くん、さっきは……」
「緑ちゃん大人しい性格だから、強く言えばなんでも言うこと聞いてくれるから都合が良かったんです!」
「兄さん……」
「こうして緑ちゃんが黙ってるのは俺が余計な事は口にするなって脅してるからなんです!」
「それが本当なら皐月きゅんは相当なクズだな」
「はい!俺はいたいけな後輩女子に関係を無理強いする最低のクズ野郎です!」
「はぁ……見損なったぞ皐月」
「だから俺はどんな罰でもなんでも受けるから、緑ちゃんはそっとしておいてくれないか?」
「皐月……アンタそれマジで言ってんの?」
全員が俺を見つめている。
「全部本当の事だッ!」
俺はそれに怯むこと無く言った。
「おらぁ!」
「ごしゃぁ!?」
突然の横からの衝撃に俺を突き飛ばされた。
「この変態!クズ!バカ!アホ!どスケベ!ド畜生!」
ゲシゲシと俺を容赦なく足蹴にするのはカズだった。
「いてっ!おまっ!なにするっ!ちょ!やめっ!?」
「ほほん?抵抗する?抵抗しちゃう?後輩女子を無理矢理ヤッちゃう最低クズ野郎が?どんな罰でも受けるって言ったよね?言ったよねぇ?ていっ!ていっ!」
「ぐぬぅ……!言った!言ったけど……!」
「はははっ!そうだよ!サツキは大人しく僕に蹴られていればいいんだよ!おらっ!これだろ?これがいいんだろ?最底辺のゴミ虫は床に這いつくばって僕に許しを乞うんだよ!ほら!ごめんなさい!ごめんなさいって!」
「ご、ごめ、ん、なさい……」
「はぁ!?声が小さくないかなぁ!それでホントに謝る気があるのかなぁ?自分が悪いことしたって自覚はあるのぉ?無いんでしょ?だからそんな謝り方になるんだよ!ホントに謝る気があるなら、もっと腹から声出して大きな声で言いなよ!」
「ご……ごめんなさいッッッ!!!」
「やれば出来んじゃん!それじゃ次は――」
アホが死ぬほど調子に乗った。
そして他のみんなはそれを白い目で見ていた。
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