#12 飛び蹴り



「ふぅ……下校時間か。おい、久保。そろそろ片付けて帰るぞ」


「うっす」



窓の外を見ると空は茜色に染まり、夜の帳が降りようとしていた。


生徒会室。鳥乃先輩と2人で生徒会の仕事をこなしていた俺は一般生徒である。勿論、生徒会役員では無い。


全ては我が愛しの会長様の尻拭いである。会長様がやらかした罰として俺はこうして、よく生徒会の仕事を手伝わされている訳だ。もはや慣れたもんである。俺は何も全く悪いことなんてしてないのに。飛んだとばっちりである。はぁ、マジで愛してるぜ会長様よぉ(半ギレ)


しっかし、俺がこうして手伝いに来る時に限って他に生徒会役員が居ないのはなんでなんだろうか。そんなに俺に仕事を回したいのだろうか。やっぱりワザとやってるんだろうな。



テキパキとあと片付けをして鳥乃先輩と共に生徒会室を出た。なぁなぁで鳥乃先輩と並んで歩き昇降口へ向かう。



「えっと……鳥乃先輩。明日は俺にお仕事あります?」



暗に今日のお手伝いで今回の尻拭いは終わりですか?と意味を込めて鳥乃先輩に問う。



「そうだな……仕事ならばいくらでも用意する事が出来るからな。お前にヤル気があるならば来い」


「分かりました!やる気ないんで行きません!」


「ほう……この私と2人きりで仕事が出来るとしてもか?」


「むしろ2人きりだと仕事量増えるんですが。他の役員の人呼んばないんですか?」


「呼んだら2人きりになれんだろ。おまえを呼ぶ時は必ず私と2人きりになるようにしてある」



鳥乃先輩は俺にそんなに仕事を押し付けたいのか……まともに会長の相手してたら常人はものすごくストレス溜め込むだろうし、その当てつけか。勘弁して欲しい所だが、仕方ない。


まぁでも口振りからするに今回の尻拭いは今日の仕事で終わりの様な感じだ。明日は絶対に生徒会には来ない。



「久保、そろそろあのクソ女と縁を切って生徒会に入れ。毎度アイツに振り回されて大変だろう?おまえの仕事ぶりなら役員になることにはなんら問題は無い」


「お誘いは有難いですが、お断りさせてもらいます。俺は会長とは離れたくても離れられませんので」


「やはりまずはあのクソ女を始末しないといけないか……」


「なんて物騒な……気持ちはわからなく もないですけど、犯罪に手を染めるのはやめてくださいね?」


「何を言っている。この私が犯罪などに手を染めるわけが無いだろ」



フンと鼻を鳴らす鳥乃先輩。


確かにこの完璧超人の生徒会長が犯罪に手を染めるわけが無いか。些細な悪をも見逃さずって感じだしな鳥乃先輩。



「なんにしても久保。明日も――」



鳥乃先輩が何かを言いかけたところで、不意に後ろから廊下を走る足音が聞こえて――……。



「はいだらぁッ!」


「じぇふてぃッ!!?!」



聞き覚えのある叫び声と共に背中に物凄い衝撃が走る。突然の出来事にまったく対処が出来ず俺は吹き飛ばされて廊下を転がった。


何事かと混乱する頭。廊下にへたりこみながら衝撃が来た方向を見るとそこには1人の女生徒。



「たくっ!アンタはこんな時間に生徒会長と2人でなにやってんのよ!」


「み、美春……!」



我らが暴力系幼なじみの美春が仁王立ちしていた。


うん。なんとなく予想してた。こんなんするの美春ぐらいのもんですよ。おそらく鳥乃先輩と2人で並んで歩ってるのを見かけた美春が衝動にかられ俺の背中に飛び蹴りをかましたとか、そんな所だろう。



「ほんっとアンタは私が目を離したら誰彼構わず手ぇ出すんだから!なに?今度は生徒会長?ホントいい加減にしなさいよ!」


「いやもうなんの事だかさっぱりなんですけど!?」


「すっとぼけんじゃないわよ!こんな下校時間の間際に男女が2人で歩いてたら怪しすぎるわ!ほらさっさと何してたんだか白状なさい!」


「いや、生徒会の仕事を手伝ってただけなんだけど……」


「だったら他の人は?なんで2人きりなのよ!」


「だからそれは……!と、鳥乃先輩!」



助けを求めて鳥乃先輩に話を振る。



「ふむ。久保の幼なじみの矢田、だったか?まぁ2人きりなのはそういうことだ」


「ちょっと鳥乃先輩!?」



なんでこの人こんな匂わせた事言うの!?やめて!美春ちゃんにガソリン注がないで!それで燃えるの俺なんですよ!?



「さぁぁつぅぅきぃぃッッッ???」


「いや待って美春……!誤解!誤解だから!鳥乃先輩もなんでそんな、なんかあった風に言うんですか!?」


「誤解も何も無いぞ。私と久保は生徒会室で2人きりで……な?」


「なんもないでしょ!?普通に生徒会の仕事してただけでしょ!?」


「こんのぉ変態ドスケベ!アンタはしっかりわからせる必要があるようね!来なさい!」



美春に首根っこを掴まれてズルズルと引きずられていく。



「それでは生徒会長。コイツは私が引き取りますんで」


「いやまて矢田」


「……なにか?」


「久保には仕事を手伝って貰ったし、"いろいろ"お疲れだろうからな。これから私が労ってやろうかと思っていたんだ」


「……へぇ」


「だから久保の身柄は私が預かる。置いていけ」


「それは出来ませんね。それにコイツに労いなんて必要ありませんので、お引き取りください」


「そうも言うな。こうして久保の相手をする矢田も大変だろう?今日は私に任せて先に帰るといい」


「皐月の相手をするのは幼なじみである私の役目なので、生徒会長が出る幕はありませんよ。生徒会長こそ皐月の相手は大変でしょう?先に帰ってもらって大丈夫ですが?」



なにやら俺を挟んでタダならぬ雰囲気の美春と鳥乃先輩。俺の扱いを巡ってバチバチと火花を散らし、互いの背後にはユラユラと炎が上がっているように見えた。



え?何この状況?修羅場?修羅場なの?どうしてこうなった!?













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