名も無き魔法使いの旅

天宮城雪華

1

「やぁ。こんにちは」


馬の被り物を被った人物が目の前で私に話しかけてくる。


「今日は君にとって、いや世界にとって最大のイベントが起きるよ」


何を言ってんのか。

この目の前のケンタウロスの反転は。

目の前の人物は立ち上がり、奥へ消えていく。


引き留めようにも声が出ない。

すると私の意識は現実へと戻される。

朝、起きたときにはその記憶は無くなっていた。


窓から日が差し、寝起きの私にとっては最悪の瞬間。

眩しすぎる。

昨日カーテンもせずにそのまま寝てしまったことが仇となって返ってきた。


私は『シキ』

このインティウム王国内の辺境にある名もない村に住むしがない村娘。

今日は私の誕生日。


この世界では15になる年に神から加護が付与される。

加護は通常のスキルとは違い、1人1人必ず付与され自分だけのスキル…ユニークスキル。

経験を積んだり魔法書を読んで獲得できるノーマルスキルと違い、この時にしか手に入らず尚且つ強力な物。


しかし、この凄そうなスキルがその人の人生をも変えてしまう。

強力が故に、もしここで農業のユニークスキルを付与されたのならその人はもう農業関係の人生しか歩めない。

つまり、この生まれて15で今後の人生を確約されてしまう。


そんな私も今年で15になる。

ここで今後の人生はすべて決まってしまう。


私の願いは…そうね。

私は、楽に生きたい!!

戦うのは嫌、肉体労働も嫌。


出来れば薬師や裁縫師辺りのスキルだといいな。

そんな戯言を胸にしてベッドから降りる。


そのまま姿見の前に行き、自分の姿を確認する。

いつも通りの長いロングの銀髪に真っ裸。

そのまま着替えをし、リビングへと出る。


両親は2人共、研究職のユニークスキルの為家に居ないことの方が多い。

研究と言ったら王国のお膝元で安定した収入で生活できるのに、

この2人はこういう辺境の村の方が研究の為の材料や素材が落ちてるからいいとこんな辺鄙な村に越してきたらしい。


その子である私からしたらいい迷惑。

王都にいた方がいい生活もできるし、収入もいいから贅沢もできる。

なのに、この2人と来たら変人も良いところ。


お腹がすいたので早速朝ごはんを作る。

料理を作ることが多いので自然と料理スキルを獲得した。

テキトーにキッチンにあった食材を鍋に入れてスープにする。


と言っても料理スキルが合わない食材は弾いてくれるので味の心配はない。

このスキルで料理に失敗することは殆ど無いので安心して作れる。

パンを2枚切り皿に乗せ、出来上がったスープと一緒に頂く。


スープの味は…問題なし。

パンとスープを平らげ、皿を洗って洗い終わったら次やることは…。

部屋に戻る!


え? 外には行かないのかって?

無理無理無理無理。

だって私、引きこもりだし人見知りだし。


今日も元気に部屋に籠って本でも読んでる方がとても有意義。

ユニークスキルも教会とかそんなところ行かなくなって勝手に付与されるし。

一応、付与されてるか確認だけしておくか。


「…ステータス」


そう発すると目の前にスキルが浮かび上がる。

なんか鑑定?のスキルを極めると自分の体力とかも分かるらしいけどどうでもいい。

浮かび上がってきたスキルは料理Lv.6、速読Lv.8、記憶管理Lv.5、記憶整理Lv4、怠惰Lv.4の5つ。


まだユニークスキルは無い。

料理と速読とかは良いけど怠惰は何?

人と話すのが嫌すぎて引きこもって生活してたらいつの間にか手に入れていたスキル。


不愉快だ、不愉快でしかない。

スキルを付与している神に一言文句を言いたいレベルに。

そう思っているうちにステータスが更新される。


お、ユニークスキル来たかな?と思って確認すると、そこには憤怒Lv.1の文字が。

おいごら、神とやら。

いくら神だからって何もかも許されると思うなよ?


こんなの付与したってことは私の思ってること、聞こえてんだろ?

大体お前らのユニークスキルとかいうやつのせいで人間様は迷惑被ってる訳で少しは申し訳ないと思わんか。

なんか凄いスキルの1つぐらい付与しろよ。


すると、またまたステータスが更新される。

そこには傲慢Lv1と叡智Lv.1の文字が。

はっはーん、上げて下げるタイプね。


うん?待てよ。

このまま神の機嫌損ねたらとんでもなく迷惑なユニークスキルが付与される可能性がある。

神様…! 愛してます!! めっちゃ信仰してるよ!!!


よし、媚売りはこれぐらいでいいだろう。

自分の部屋に戻り、本棚から適当に本を漁りベッドに寝転がる。

あー、ここら辺の本はもう何回も読んだなぁ。


そう思いながらも読んでいるとウトウトとしてきてそのまま眠ってしまった。

すると辺りの景色は一転して同じ景色が永遠に続く虚無の空間で目を覚ます。


「やぁ。こんにちは」


私の前に現れたのは、椅子に座った馬の被り物をした人物。

…なぜ馬?

そんな事よりも見覚えがあるような無いような。


「ん、…誰?」


そこには姿は…分からない白い靄のようなものがかかっていて視認できない。

けど、タダ者ではない感じはする。


「うーん、そうだね。この世界の神の1人、とでも言っておこうか」


椅子に座る様催促される。

しかも、コイツ自分を神だと名乗った。


しかし他人と話すなんて何年ぶりだろう。

ここ最近はずっと家族ともろくに話していなかったからか頭の中では話したいことがあるけどそれを声に出来ない。


「ああ、そうか。君は喋るのが苦手なんだっけね」


「これでどうだい? 声に出したいことを念じてみて」


『ここはどこ?』


「そうそう、その調子。ここは夢の中さ」


『夢の中?』


「正確に言うと…まぁ今は良いかな。早速だけど話を進めよう」


私は無言で頷く。


「まず初めにこの記憶を返そう」


そう言って神を名乗る変質者は自分の手元を操作している。

すると私の中に新たな記憶が入り込んでくる。


『これは…私?』


「そう、これは君の前世の記憶。と言ってもほんの15年前の記憶の一部だけどね」


「君の前世の名は安達 式識(あだち しきおり)、日本人さ」


安達式織…、記憶は合間だけど何となく懐かしさを感じる。


「簡単に言うと君は異世界転生をしたんだよ。記憶を失ってね」


「君は高校2年の時に修学旅行先でクラスメイト全員と死んだ」


そんな馬鹿な。

ていうか修学旅行って何?


『それって私だけ転生したの?』


「いや、君以外の全員もこの世界に転生する予定さ」


『予定?』


「そう予定。でもあの時死んだ全員は転生出来てない訳じゃなくてこれから転生させる手筈になってたんだ。君も例外無くね」


『じゃあ、なんで私だけもう転生しているの?』


「そう、それなんだよ。君がイレギュラーなんだ」


「本来、魂がこの世界に馴染むまでに15年はかかる予定だったんだけどねぇ」


「どうも君の魂はこの世界と相性が良かったらしくすぐに馴染んでしまって、ちょっと目を離していたらもう君は転生していた」


「それで何も保護していない君の前世の記憶が飛び散ってしまってそれを回収していて気づいたら15年経っていたってわけ」


『全然回収しきれてなくない?』


渡された記憶を何度見返しても少なすぎる。


「はは、痛いところを突いてくるね。その通り、一部しか回収できなかった」


「回収できた記憶は君個人とクラスメイトの名前と死ぬ当日の記憶だけ」


『まぁ何となく分かった。でもちゃんと見てれば私だけ先に転生するってことは無かったんだよね?』


「うん、これは僕の管理責任。償いは随時させてもらうし、現に今日もスキルを3つも付与したよ」


ああ、あの不愉快スキルね。


『じゃあ、ユニークスキル生産職系にして』


「で、だ。ここからが本題なんだけどいいかな」


ちっ、話を流された。


『何?』


「今から10年後、現勇者候補と現魔王が戦うらしいんだよね」


「でもそれはいいんだけどさ、その後が問題なんだよ」


それはいいんかい! 結構重要そうだけどなぁ。


「確実にその次の勇者候補が君のクラスメイトになる」


「僕はこれを阻止したいんだよ」


『なんで? 勇者ってみんな憧れるようなもんだと思うけど』


「勇者っていうのは表面上だけ見ればそうかもしれないけど、戦いの道具だよ?」


「魔王との最終兵器、戦争が終われば捨てられる。それが勇者」


うわー、それ聞くと勇者になりたくもないし関わりたくもない。


「僕としては転生者の皆には生きて欲しいからね。こんな無駄なことで死んで欲しくは無いんだよ」


『で、私に何をして欲しいの?』


「今から9年以内に勇者か魔王を殺して欲しいんだ」


まぁですよねー。

何となく察していたけど。


『なんで9年?』


「勇者のユニークスキルって次の者にわたるのに5年かかるんだよね」


「つまり、10年目に殺してはダメだしそのまま予定通り戦争が終わってもダメなんだよ」


「何せ、その5年後には僕が転生させる君のクラスメイト達がユニークスキルを貰う年だからね」


『その転生を遅らせることは出来ないの?』


「こう見えても僕は忙しいんだ。というかもう既に何人かは転生始まってる」


「これさえ達成してくれれば素敵な異世界スローライフが君を待ってるからさ」


私は穏やかで楽な生活がしたいの!!

そんな面倒ごとに付き合ってられるか!!


『神なら付与するユニークスキル弄れるでしょ?』


「そうはいかないんだよね。おっとそろそろ時間だ」


「まぁどっちの味方するかは君に任せるよ」


神は目の前の椅子から立ち上がり去ろうとする。


『ちょっま!』


「まぁこの辺については本を君の部屋に置いておくから読めば分かるよ」


「じゃあ良き異世界ライフを」


そう言ってスキップしながらこの虚無の空間に突如として現れたドアから出て行く。


「あ、ユニークスキルはもう付与したから目覚めたら確認してね」


「きっと為になるスキルも付与させてもらったよ。償いの一歩目だ」


ひょこっとドアから顔を出し、それだけ伝えると今度こそ本当に消えて行った。

すると私の意識も朦朧とし始める。

どうやらこの空間ともお別れの時が来たみたい。


いつも通りの部屋で目を覚ます。

取り敢えず体をあちこち触り、異変が無いか確認する。

何も変わりないと思う。


そういえば神(自称)がユニークスキルを付与したって言ってた。

確かめてみる。


「…ステータス」


≪ステータスが更新されました≫


ステータスを開くといきなりデカデカとその文字が浮かび上がる。

スキルを確認する。


ノーマルスキル

料理Lv.6、速読Lv.8、記憶管理Lv.5、記憶整理Lv4、叡智Lv.1


大罪スキル

傲慢Lv.1、憤怒Lv.1、怠惰Lv.4


ユニークスキル

魔法使いLv.1


パッシブスキル

不老Lv.1、鑑定Lv.1


な、なんじゃこりゃあああ!!!!!!

何!?不老って。


≪不老。いつまでも若く、年をとらないこと。≫


叡智スキルが発動して詳細を説明する。

んなこと分かっとるわ!

しかも怠惰達、大罪って…。


その上ユニークスキル!

生産職にしてって言ったじゃん!!

ゴリッゴリの戦闘職じゃん!!


ヤダよ~ もう。

こんなのってないじゃ~ん!!

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