第2話 教えてよ

 一向にベットの上から動かないボウズに、俺は不満を蓄積させていた。あれから何日経ったと思ってる。ボウズはいろんな景色が映し出される変な黒い板をじっと見たり、勤勉にも本を開いたりするだけだ。これについては全く用語がわからんからつまらん。


 暇だ。


『なあボウズ、遊ばねえの』

「遊ばない」


『なあボウズ、あの馬車乗って手綱握ろうぜ』

「乗らない、てか乗れない」


『なあボウズ』

「うるさいなぁ!ほんと誰だよお前!」


 そういや自己紹介をしたことがなかったな。誰だと聞かれると過去ばっかり語っていた。

『ロンとでも呼んでくれ』

「じゃあロン、ぼくの体から出ていってくれない?」

『できるなら俺もそうしたいよ。すまんなボウズ』


 実際、俺がボウズの体から抜け出すことはできない。こいつが寝ると俺の意識も勝手に飛ぶ。だから寝た時に幽体離脱作戦などは全部失敗に終わった。


 昔のことを思い出す。みんな、俺が死んだ後ちゃんと埋葬してくれたかな。母さんも、父さんもその後元気に暮らしてくれたかな。


 あ、

『そういやボウズ』

「今度は何?」

『お前、お父さんは?』

 俺が意識を持ってから、定期的にボウズに会いにくるのは母親だけで、父親を見たことはなかった。

「死んだよ。ぼくが小さい頃にね」

『そうか、悪いことを聞いたな』

「死人に言われても別になんとも思わないよ」


 こいつは偉いキモの座ったガキだなと思った。

 ただよく見てみると、腕は木の枝先みたいに細く、しおれて今にも折れそうだった。

 何かの病気か。となると、ここは救護施設。なんだか悪いことをした気になった。

 他の話題に変えよう。

『ところでお前いくつだ』

「じゅういち」


 え、若くない?なのにあんな大人びた発言すんの?すっげえなあ二千年。


「ロンは?」

『え?当時から考えると..』

「当時の年齢でいいから」

『23だな。今は知らんがあの時はその年齢で人生の半分以上は生きてるようなもんだぞ』

「意外と大人なんだね。けど今は90くらいまで生きるよ」

 現代技術怖い。どうやってそんな伸ばしてるんだ。


「ね、勉強できたりするの?」

『ん、まぁ一応貴族に成り上がった身だからそれなりにはな』

「じゃあここ、教えてよ」


 そう言うとボウズは計算表を取り出してきて指をさす。

 意外と基礎は変わらないもので、このくらいは俺にも解けた。こっちでこの知恵を活かせて本当によかった。自動計算機とか出ていたら壊しているところだ。


「じゃあ答え合わせするね。えっと21かけ..」

 ん?なんだ?

『ボウズ..それ..まさか?』

「電卓だよ。自動で計算してくれるやつ」


 はあ?俺いらねえじゃん。存在価値吹き飛んだじゃん。ただの人様の思考の中で勝手に存在する変なやつじゃん。


『俺にやらせた意味なんだったんだよ...』

「ん?確かに試すって意味もあったけど、電卓じゃ計算の仕方までは教えてくれないんだよ。だから、これから色々教えてよ、ロン

 このクソガキ!



 ....まあでも。



 こういうのもいいな。と思ってしまった。

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