中世の騎士から現代の子供に転生したけど、体までは乗っ取れませんでした

千口立華

第1話 ハジメマシテ

 終わった。無数の敵に囲まれてしまった。俺の命もここまでか。結婚の約束、したまま出てきちまったのに。

 遠くに援軍は見えるが、間に合いそうにはない。ん?待てこいつら何やってんだ?なんで大砲こっちに向けてんだ?おい?おい、やめろって。おい!

 真っ直ぐ向かってくる砲弾がブレたまま真っ直ぐこちらに向かってくる。

 あ、死んだ。死んだわこれ。はーい、全員呪いまー、


 この記憶はここまでだった。


『で、俺は死んだってわけだ、ボウズ』

「へえー。それで、...お前誰だよ。いい加減うるさい」

 ええ。ひどくない?

「たっちゃん、誰と話してんのー?」

 全体的に白く塗装された部屋に、こいつが寝ている白い大きめのベットが一つ。縦に置かれた布のような置物の奥に横開きの扉。そこから、母親らしき人物が怪しむように覗いていた。



 事の始まりを説明するには3日前まで戻らなくてはならない。

 俺が目を覚ますと、この何もない真っ白な部屋にいた。最初は驚いたものだ。

 窓の外にはよく分からん大きな銀色の筒がたくさん生えてるし、その隙間を縫うように敷かれた黒い地面の上を、陽光に反射させながら真っ直ぐ走る鉄の馬車まである。天国にしてはえらい殺風景だなと思った。もっとこう、緑が生えていてもいいじゃないかと。


 まあそんなことはいい。異変に気づいたのはこの後だ。

 俺が体を動かそうとしても微動だにしない。しかもそれだけでは終わらなかった。体が勝手に動き出したのだ。

 だから今度は声を出してみた。

『誰かー!天使さーん!もう少し丁寧に弔ってくれやしませんかねー!』

 自分の声ははっきり自分に聞こえていた。環境音も聞こえる。でも部屋には響いている様子はない。自分からは声を発せないようだった。


 だが、俺の声に応えたやつがいた。

「は?なに?だれ?」


 これがボウズ、つまりこの体の主のとの最初の出会い..違うな。会話だった。

 聞くとここは二千何十年の世界らしく、あまり殺し合いなどは行われていないそうだ。

 俺が初めてじどうはんばいき?でボウズが水を買っているのを見て驚くと、「なに?囲碁でもしたいの?」と嘲笑いながら言われた。イゴってなんだよ。


 ま、ともかくそんな楽しそうで便利な時代に転生したのに、体が自由に使えないなんて、ある意味拷問だ。ボウズ生意気だし。


 あーあ、本当、体くらい乗っ取らせてくれよ。神様。

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