I01-01 7月12日――ラボ オフィススペース
注)「ヒューマンシステム」本編1章30話「第30話 彼と彼女のSay GoodBye」から4日後のお話です。
→https://kakuyomu.jp/works/16817139558245119804/episodes/16817330648523115468
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アーストルダムラボの研究グループ、Bグループが使用しているフロアの一角に、テストパイロットたちのオフィススペースがある。
その日ラディウはそこのデスクで、書類仕事をしていた。
これを終わらせれば、明日の休みは仕事を忘れて過ごす事ができる。手書きのメモと画面のデータを交互に見ながらテキストを打ち込んでいく。
コンコンとスペースを区切るパーテーションをノックされ、顔を上げるとウィオラが立っていた。
「ラディウ、ちょっといいかな?」
「はい?」
キーボードを叩く手を止めて、椅子に座ったまま見上げる。
「今朝、きみが送ってきたシミュレーター使用許可申請なんだけど」
そう言って、ウィオラはタブレットの画面を見せた。
「不備がありました?」
「そうじゃない。明日、きみは休みだよね?」
「そうですが、それが何か?」
ラディウは不思議そうに首を傾げる。
「なぜ休みの日にシミュレーター使うの?」
「なぜって、休みだから休みにしかできない事をしようと思って……」
話が進まない。ウィオラは質問の仕方を変えた。
「メテルキシィのシミュレーターで何をするつもりなのか説明してくれる?」
「特定の条件下で気になる
「それは普段の訓練じゃできない事なのか?」
ラディウはむぅ…と口を尖らせる。
「自主研究のようなものを、仕事の枠でやるのは宜しくないかと思ったので……」
今週と来週は予定外の検査を入れられて、
「で? その『自主研究』で何をするつもりなのかな?」
「大した事じゃないです。BMIとAIの支援を切った操縦を試したかったんです。それだけです」
やや投げやり口調でそういうと、フッと目を逸らす。
「この間の件で一緒になった、ロバーツ少尉のドラゴンランサーの動きが凄かったから、ちょっと試してみたいなって」
「あぁ……例のホビー機の」
つい先週の事件の時に、彼女らが脱出で使った機体だ。
「機体特性が違うとかそういうの、諸々理解してますよ。もちろん……でも、試してみたいんです」
「わかったよ。申請の半日は許可できない。1時間だけだ」
ウィオラは内容を変更してから承認のサインを入れ、ラディウ宛に送る。
「ありがとうございます」
「それときみは、操縦以外の趣味を見つけたほうがいい。今後のためにもね」
「善処します」
彼女の全くその気がない返事に、ウィオラは苦笑してブースを離れる。
ラディウは椅子の背もたれに体重をのせ、背伸びしながらウィオラの背中を見送ると、反動をつけてぐいっと身体をおこした。
「早く終わらせてジムに行こ」
ウィオラに言われなくても趣味ならある。
ジムで身体を動かすのは楽しい。いい気分転換だ。パイロットとして必要な体力作りになるから、実益を兼ねている。多分これは趣味になる。
ラディウは再び目の前の報告書作成に取りかかった。
――2日後
「それで、昨日はどうだった?」
ラディウは検査室のシートに座り、研究員に囲まれて検査機器に繋がれている時、ウィオラに尋ねられた。
「結論から言うと大失敗でした。開始20分もしないで
シミュレーターのコントロールをする担当者に頼んでBMIを停止してもらい、かつAIの自動制御も制限したら、僅かな操作でシミュレーターのコクピットコアがグルングルン回って大変だった。
ラディウが制御できずに振り回されもがいているのを、たまたま訓練でその場に居合わせたロニーとジャックには大受けだったらしく、強制停止させれらてフラフラになって降りてきたら、さらに馬鹿笑いされた。
もう一度、管理者に頼み込んで、色々設定をいじってみたが結果は同じ。結局これ以上は危険と判断した管理者に止められて、強制的に終了させられた。
とはいえ、普段何気なく操作している航宙機が、どれだけAIやBMI支えられ、自分がその恩恵を受けて操縦しているのかを逆に学ぶことができた。
「ホビー機ってどこまで制御を
研究員に手渡された検査用のHMSヘッドセットを装着してウィオラに告げる。
「ん、じゃあ始めるよ」
ウィオラが端末の操作を始めると、検査用のリンクシステムのマイルドな接続感が伝わってきた。
HMS越しの視界が明るくなる。
――今回の失敗を受けて内容を検討修正し、次はいつ試そうか……
直近の休みは、一番辛い項目の検査明けだから動けない。次の休みはまだスケジュールが出ていない。隙間時間を利用して、もう少しホビー機について情報を集めてみようか……
目の前に表示されるポイントを、漫然と目で追いながら思案していると、すぐにヘッドセットの骨伝導イヤフォンから、ウィオラの注意が飛んできた。
「ラディウ、他所ごと考えてないで集中しなさい」
「はい。ごめんなさい」
ラディウは肩を竦めて答えると、一旦頭からホビー機の事を消して、目の前の作業に意識を向けた。
ヒューマンシステム 〜生体兵器はヒトでありたい みつなはるね @sadaakira
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