第25話 彼らと遭遇 2

 CDCからの帰艦命令を受け、ラディウは離脱タイミングを計り始めた。


「Copy “エルアーラディウ”。 <ディジニ>、帰艦を優先する。Control you have」

《Copy, I have》


 ダメージを受けた機体の制御を<ディジニ>に任せ、ラディウは周辺の警戒と攻撃に意識を集中させる。自分にかかる負担が大きいが、そのほうが”ベレッタ”の攻撃を避ける確率を上げられる。


 シエラ1、イーガンの小隊がリープカインドが最も苦手とする多数対1の戦術を取り、ボギー1を追い詰めはじめた。


 ファーブニルは重攻撃型の機体でリウォードより搭載する武装が多い。また、こちらも見た目以上に小回りが利く。


 トムはこなれた機体操作と火器管制で、ボギー1から主導権をもぎ取りはじめていた。


 一方ラディウの方は、加速が不十分なエインセルを操り、辛うじて”ベレッタ”から逃げ回っている。それをヴァロージャとティーズがカバーして遮る。


 このまま戦場に留まるのは、自分だけではなく仲間にとってもリスクが高いのはわかっていた。


 ”ベレッタ”のズラトロクから強烈な『逃さない』という強い意志を感じる。逃げ切れる気がしないが、それを敵に悟られる訳にはいかない。必死になって回避と攻撃イメージを持ち続ける。


「このままロージレイザァへ向かうと、ボギー2を連れて行ってしまう」


 ラディウが”ベレッタ”の対応を、なんとかしなくてはならないと苦心しているところに、味方の中距離ミサイルが飛んでくるイメージと、レーダーにIFFの応答が入った。


 ジュリエット1第2中隊1小隊、エルヴィラが率いる小隊だ。

 ミサイルは宙域に散布されたHi-EJPの影響を受け、ベレッタに易々と躱されると、そのまま目標を見失い自爆した。


ジュリエット102ルゥリシア103トルキーシエラ202ラディウをエスコート! ジュリエット104ターナーは私と一緒にシエラ2ティーズ小隊をフォロー!」


 エルヴィラが小隊機に指示を出す。


 自分の僚機であるルゥリシアをトルキーの僚機に預け、エルヴィラはHES強化兵パイロットのトルキーを自分の僚機につける。


 滑らかにフォーメーションが変わり、速やかに会敵する。これは彼女らが事前に打ち合わせていた作戦だった。


『ジュリエット102了解』

『ジュリエット103 Copy』


 ラディウはアグーダエルヴィラ小隊の小隊無線に割り込んだ。


「”アグーダ”、”エルアー” リープカインドが苦手な多数対1の戦術が使える。リープカインドはこの機数は対応しきれない」


『”アグーダ” Wilco。ジュリエット104とシエラ2。ボギー2を連携で追い詰める』


 ティーズ達の「了解」の応答が聞こえる。


 ウィリーズも、敵対する機数が増えたことで動揺したのが、ラディウにはわかった。


 彼らはこの機数を相手にするのは不利と判断したのか、ボギー1とボギー2が翼を翻して戦闘空域を離脱しはじめた。


『敵が撤退する』


『深追いはするな!』


 その時、シュッと自分を狙うミサイルの機動を、ラディウは感じた。どちらかがEECミサイルを放ってきたと彼女は判断した。


「ロックされた! 回避する!」


『こっちもだ!』


 トムの叫び声が聞こえた。


 足止めのためか、それとも置き土産なのか。


「”エルアー”!」


 ヴァロージャがカバーに向かおうとするが間に合わない。


「<ディジニ>! 回避!!」


 ラディウはもたつく加速に苛立ちながら回避イメージをディジニに伝える。


『”エルアー”! カバーする!』


 危険を顧みずルゥリシアが割り込み、チャフを撒き散らした。


 キラキラとした金属片が舞い、ギリギリのところでミサイルが爆発する。2機は衝撃を受けつつも、これをやり過ごすことに成功した。


 寸でのところ助けられたラディウは、ハァハァと大きく肩で息をしながら、口の中がカラカラに乾いていることに気づいた。


「ありがとう……”ルックスルゥリシア”」


 大きく息をつき、ラディウはルゥリシアに謝意伝える。


 彼女がカバーに入ってくれなければ、あのまま撃墜されていた思うと、ラディウは感謝と同時に恐怖を感じて、ぶるりと身を震わせた。


『今度、クリーンシャツのディナーを奢って頂戴』


 ラディウの気持ちを知ってか知らずか、ルゥリシアが荒い息を整えながら、おどけるように言う。


「勿論、ランチもつけるわ」


 ラディウはそう言って通信を切り、大きく息をついてうなだれると、震える両腕で自らを抱きしめた。


 ――やっと終わった。怖かった

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