第21話 彼らの方針

 艦内の情報解析室で、チームシエラとロージレイザァ付きの情報部員、アトルバ少佐とフエブキ大尉が集まってミーティングを行っていた。


 彼らは室内中央のセンターコンソールテーブルをぐるりと囲んで、手元の画面を見つめている。


「先のジュリエット3が攻撃を受けた際の襲撃者は、ユモミリーのリープカインド部隊の可能性が高い」


 アルトバ少佐は手元のコンソールを叩いて、残された機体の映像データをスクリーンに映し出す。


 音声こそカットされていたが、アラン・ジーが撃墜された直後の映像が映し出されている。


 第3小隊のアランとリサ・オースナを撃墜したのは、トムが指摘したようにリープカインドが扱う思考誘導型のミサイルだったのは、データからも明らかだった。


 仲間の最期の瞬間は、見ていてあまり気持ちの良いものじゃない。


 ラディウは目を閉じてしゃがみ込みたい衝動にかられるが、それを堪えてしかめっ面で戦闘映像を見ていた。


「同じ兵器を使う……」


 トムの呟きに、敵のリープカインド部隊が元Aグループである事を知るラディウは、基本的な技術の出どころは同じなのだから、何の不思議もないと思う。


 そして彼女の知るこの情報は、トムやスコットらに開示されないだろうとも考えていた。


 かつての自分たちの友人や知人が、敵になっていることを知った時、彼らは迷いなく対応できるだろうか。その一点を考えると、ラボと繋がりが深いティーズやイーガンが、彼らに打ち明けるとは到底思えなかった。


 特にあのリストの中にいた、フレドリク・ケロールはトムと仲が良かった。ラディウとシルヴィアがそうであったように、彼らもよく組んで飛行訓練を受けていたのを彼女は覚えている。


 ラディウもボギー4がシルヴィアであることを知らなかったから、ああして戦えた。


 彼女が"ベレッタ"と呼ばれ、まるで別人のように現れその存在を知った今、どこまで割り切って戦えるのか、正直なところ自分でもよくわからない。


「先日の交戦データも含めて情報部に照会したところ、これが今朝、1課から届いた。例の敵部隊に関する情報だ」


 ティーズはそう言って、各自の手元のモニターに情報を送る。


「敵もBグループのコッペリアシステムと同じようなシステムを使っている。”ウィリシステム”と言う」


 ティーズがディスプレイにウィリシステムの概要を表示させた。


「このウィリシステムを搭載している機体は、マスター型の”ゲーニウス”と、スレイヴ型の”ズラトロク”」


 スレイブ型の”ズラトロク”と呼称されている機体。これは、通常のFAと変わらないようだが、”ゲーニウス”と表示されたマスター型は2倍以上の大きさがあった。


「こんなの戦場にいたら的じゃないか」


 レオンの指摘はしごく当たり前の事だった。


「情報によると、この機体は主に後方で展開。リープカインド1名で運用している」


 スコットが手を挙げた。


「マスター型って、何をするんです?」

「”ウィリシステム”の本体、統合AIミルタを搭載し、スレイブ機のシステムとリンク、統合する指揮機だ」

「それを一人で運用?」


 ティーズは「あぁ」と頷いて続ける。「リープカインド同士を繋げるハブのような存在……という事だ」


「リープカインドがリープカインドと繋がる?」


 トムはよく分からないという顔をして首を傾げた。ダニエラは「どういう事です?」とティーズたちに尋ねるが、先にラディウが口を開いた。


「ひょっとして、Hi-EJPなどの強力な電波妨害に左右されない情報伝達データリンクシステムを、彼らは確立させているということですか?」


「そうだ」とティーズは頷いた。


 ラディウはそれについて以前、スコットやメリナと一緒に格納庫で意見交換をしたことがある。もしそうだとすると、アーストルダムラボが検討中のそれを、ユモミリーはいち早く実用化していると言うことになる。


 ふとスコットの方を見ると、彼も同じように彼女を見ていた。同じことを考えているのは明らかだった。


「ひょっとしたら、コンテイジョン現象を利用しているのかも……」


 ラディウはそう言いながら、不安げにティーズの方を見ると彼と目があった。


「それは現在、ラボが解析中だが、その可能性がある」


 ラス・エステラルでヴァロージャとの間に引きおこしたあの現象を、彼らがコントロールした状態で使っているなら、それは脅威だ。


「待ってくれ、コンテイジョン現象が出てくるとなると、敵は全員がBグループのコッペリア使いと同等か、それ以上っていうことだろう?」

「双方向止まりの私たちでは手に余るかもね……」


 レオンとダニエラが顔を曇らせる。


「この”ウィリシステム”を扱う敵リープカインド部隊を”ウィリーズ”と呼称することになった。現状わかっているのはこのくらいだ」


 今までの襲撃も、敵がシステムの試験運用をしているのではないのか? というのがラボの見解だということを、ティーズが皆に話す。


「先日の襲撃を考えると、連中は再び手を出してくる可能性がある。予定通り訓練は続けるが、攻撃を受けた場合はロージレイザァ飛行戦隊と連携して、最優先で敵の対応を行う。場合によっては分隊単位でアラートについてもらう可能性もある。気にかけておくように」


 各自がそれぞれが返事をしたり、頷いたりして了承の意を示す。


「それとこの話だが……ここの飛行戦隊には、デシーカ中佐から話がいく」


 イーガンはラディウたちを見回すと「ここの戦隊飛行士と仲の良い者もいるが、今ここで話していることは、他言しないように」と釘をさした。


 わかっていることを改めて言われると、ラディウは自分たちがルゥリシア達と異なる指揮系統の下にいることを痛感する。


 少し寂しいと感じるが、今回は一人じゃない。トムやヴァロージャと言った同じグループの仲間がいるのが心強い。だからうつむいて不安にならず、前を向いていられた。


「今日は以上だ。今後の予定は各自の端末に送信する」


 各自が「了解」と返事をし、緊張感が一気にほぐれた。


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