第20話 彼と彼女の悲しい知らせ
ベータカポティの合流ポイントに向かう航行中ではあるが、飛行中隊にとってはいつも通りの哨戒任務だった。
一本の青白い航跡が、
『
「ジュリエット304、応答せよ。304……ジュリエット304ロスト」
通信オペレーターが、背後に立つデシーカを見上げる。
『CDC! ジュリエット3リーダー! ミサイル 攻撃を受けている。
「ジュリエット3 敵はわかるか?」
『IFFの応答なし! レーダー視程に入らない どっから飛んできた』
CDCにウィザーが入ってきた。そのままデシーカの隣に立つ。
「
「
イーガンとアトリーの小隊だった。
「彼らは爆装済みか」
「はい」
「なら対応に向かわせろ。訓練中止。第2戦闘配置発令。アラートスタンバイ。それと――」
指示を出しながら、ウィザーは艦長席についた。
「
「了解」
デシーカはターミナルからティーズを呼び出し、続いてデッキハンドラーに、機体準備の指示を伝えた。
指令を受けたキャリアーのデッキで、イーガンが指示を飛ばしながら自機へ向かい乗り込んだ。
「”
トムは愛機ファーブニルの中で、テキパキと緊急発進の準備を進める。
「はい! 隊長! <イフリーティ>緊急発進をする。チェックリスト開始」
トムは手早く足先から自身の装備品状態チェックを行い、最後に緩めていたハーネスを調整する。
《了解。緊急チェックリストを開始――終了》
「ハッチクローズ」
《Copy》
誘導に従い機体を格納デッキから表にだし、イーガン機が出てくるのを待つ。
数分後、2機は発着デッキからふわりと宙に浮かび、キャリアーから離れると、最大戦速でロージレイザァから指定された宙域へ向かった。
イーガンとトムが先行した現場宙域は、行動不能になった2機が力なく漂流し、さらに2機が撃墜されて、搭乗していたパイロット1名が行方不明になっていた。
「何があったんだ?」
状況を目の当たりにしたトムが、周囲に注意を巡らした時、彼は貫くような感覚を感じて、機体をそちらへ向けた。
――ミサイルだ!
「隊長! 回避を!」
トムは向かってきたミサイルを捕らえて、撃破イメージを自機に搭載しているEEGミサイルに送り、それを発射しつつ回避行動に移る。
敵から放たれたミサイルは、トムのファーブニルを狙う機動を描き、トムは自機が放ったミサイルを誘導すると、やがて爆発の華が暗闇に咲いた。
「これ! EEGミサイルなのか!?」
それを放つとなると、敵は自分たちと同じリープカインドという事になる。
トムは恐れていた事になったと思い、慎重に敵の気配を探るが結局見つける事はできなかった。たださっきのミサイル攻撃を機に、場を支配していた「視られている感覚」が急速に薄れているのを感じた。
事件二日目――
一人戦死者がでて、一人行方不明。
現在、救難機による捜索が行われているが、まだ発見には至っていない。
ラディウたちも何度か行方不明者の捜索のために飛んだが、そう都合よく見つかるものではない。
休憩と補給のために、機体から離れてロージレイザァ艦内の待機場所に戻った時だった。
「リープカインドが飛んでいて、まだリサは見つからないのかよ」
ラディウたちより先に休憩に入っていた第1中隊2小隊の中尉が、彼女を見て嫌みったらしく言う。
ラディウだって彼女を見つけたいのは本心だ。しかし、撃墜直後に捕捉するのと、時間が経ってから見つけようとするのは勝手が違う。
この広い宇宙を、手がかりと言えば現場にいた機体のデータから算出した漂流予測エリアと、発信される救難信号だけを頼りにコアを探し出すのは、海の底に落ちた一本の針をすくい上げるようなものだ。
ラディウはヘルメットを納めたロッカーの扉をガンと叩きつけるように閉めて、中尉を睨んだ。
「私たち、そんなに都合良く便利じゃない!」
「やめろ、ラディウ」
ヴァロージャは彼女の肩を抑えて静止させると、中尉に頭を下げる。
「申し訳ありません、中尉」
中尉はフンっと鼻を鳴らすと、「肝心な時に使えねぇな」と言って、僚機の少尉を伴い部屋を出た。
去り際に少尉が「ごめんね」とジェスチャーをして出て行く。
対リープカインド戦の訓練で、ラディウ達に散々やられているのだから、彼らの鬱憤も溜まるし、得体の知れない攻撃で仲間を失ったストレスの吐口にもなるのだろうとヴァロージャは思う。
それでも発見できないのを彼女のせいにするのは間違っていると思ったが、他所の艦で揉め事を起こすのは良くないと彼は判断した。
だから、一瞬カッとなりかけたラディウを抑えもする。
ここに居るのは彼らだけじゃない。他の小隊のパイロットたちもエレメント同士で固まって休息をとっている。彼らが時折ちらりと二人を見遣る。
当のラディウは補給が終わるまでは勝手にこの場所から離れるわけにもいかず、大声を出した気まずい思いを胸に、
絡んできた中尉だけじゃ無い。ラディウだってショックを受けている。
撃墜され戦死した
「ほら、もう一回行くんだから、今のうちに食べて飲む」
ヴァロージャはラディウに飲み物と軽食のパックを渡し、彼女の隣に腰を引っ掛ける。
ラディウは頷いてそれを受け取り、封を切った。
いくら合同演習があるからと言っても、その前にスケジューリングされた今回の訓練。
「わざわざ向こうから手を出してくるのを待っているようで嫌ね」
少しパサついた、小さな一口サイズのローストビーフのサンドイッチを飲み込んで、ラディウは呟く。
「どうしたんだ? 突然」
ラディウはヴァロージャの問いに答えず、黙ってもう一つサンドイッチをつまみ、パン屑が飛ばないように気をつけて口に入れる。
彼女は黙々と食事を続け、最後にグローブの指先を同梱されているウェットティッシュで拭ってから、パックの蓋を閉じた。
「どうしてこんなにリープカインドを集めたのだろうって思って。月のトムまでわざわざひっぱりだして……」
飲み物を一口飲んでから、ラディウは格納庫が望める窓に目をやった。機体と人が慌ただしく動いているのが見える。
脱出ポッドの生命維持の残り時間はあと1日。
ラディウは数ヶ月前に自分が同じように漂流したことを思い出した。
あの時のティーズたちは、今自分が感じているように、見つからない不安を抱えて捜索していたのだろうか。
あの時、流れた先がセクション2の宙域でなければ、ヴァロージャたちに見つけてもらえなければ、自分は死んでいたかもしれない。
彼女はそう思うと、自然に言葉が出てきた。
「……私を見つけてくれて、ありがとう」
ヴァロージャは怪訝そうに真っ直ぐにデッキを見つめる彼女の横顔を見たが、すぐに思い当たって笑みを浮かべ「あぁ……」と相槌をうった。
翌日、行方不明のジュリエット303番機、リサ・”シフター”・オースナ中尉は発見されないまま、死亡が確定した。
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