第39話 彼女の懸念
トルキーの威嚇射撃を受けて、ひらりと回避する敵機に、ラディウは自機を横滑りさせて強引にボギー4の横に入れる。
横からのGに意識が飛びそうになるのを堪えながら、当てるイメージでトリガーを引く。
流すように、相手が来るであろう予測地点に撃つと、ラディウの動きに呼応して、挟み込むようにトルキーも撃ちこんできた。
2機からの波状攻撃を避けるように、ロール重ねて回避しようとするボギー4に対し、ラディウが更に短距離ミサイルを撃ち込む。
チャフをばら撒いて回避するボギー4に、さらにトルキーが追い討ちをかけるよう、同じ短距離ミサイルを続け様に放つと、避けた先に先回りをしたラディウが放ったビームが、ボギー4の左翼を掠めた。
「当てた!」
集中と呼吸が乱れるため、普段は出さないようにしている声が思わず出る。
相手の姿勢が崩れたところで、すかさず短距離用のエネルギー弾を撃ち込む。左のサブスラスターと思われる個所に着弾。
このまま撃墜させようとしたところ、別の気配を感じて咄嗟に機体を右上に捻り、ECMで欺瞞させながらチャフを撒く。
ほぼ同時にミサイルが爆散し、ブラウンとユボーが対応していたボギー3が割り込んできた。
被弾したボギー4への援護だろう。
2対1から2対2へ。
ボギー3に対応していたブラウンが追いかけてきたのが見えた。
『”
トルキーの指示が飛ぶ。ラディウはすかさずトルキーの右翼につく。
『”
トルキーはボギー3を追いかけてきたブラウンに、ユボーのコクピットコアを追うように指示をする。
『
ラディウが口を開く前に、<ディジニ>がブラウン機の支援AIにユボーのコクピットコアの予測位置情報を送る。
「”チップス”、こちら”エルアー”。状況終わり次第支援します」
『頼む』
ブラウンのメテルキシィが加速して宙域を離脱する。
それを見送りながら、さぁ2回戦だ! と気持ちを引き締めた時、遠くで自軍のものではない発光信号が上がるのが見えた。それを合図に、敵機が一斉に機体を翻して離脱していく。
「敵が……引き上げる?」
『”アグーダ”より”ティオ”隊。”チップス”達を支援して。私の
『”エルアー”、俺にも”テキサス”たちの位置情報をくれ』
「了解。送ります」
すぐに《送信完了》と<ディジニ>が反応した。
さて、もう一踏ん張りだ。<ディジニ>がトレースしていた情報を元に”テキサス”を追いかけて、マーク。情報を修正する。
発艦前にメリナに注意されたリンクレベルなんてとっくに超えているし、今更気にしていられない。
「予想より少し流された。”ティオ”、先に行っていい?」
『あぁ、任せる。前を飛んで誘導してくれ。それと推進剤の残量に気を付けろ』
「了解」
トルキーが自分に右翼につくのが見えた。ラディウは救助隊と連絡をとりつつ、ユボー達を追いかける。
やがて推進剤の残量が艦に戻るギリギリに達したことを<ディジニ>に告げられた時、救助隊から連絡が入った。
『支援各機、こちら”
ラディウはふっと息をついた。
『よかったな。ポジションを戻して、帰艦しよう』
「はい」
2機は機首を巡らせてロージレイザァへの帰還コースに入った。
コースと計器を監視しながら、先ほどの戦闘を振り返る。落ち着くと、相手をしていたボギー4が気になって仕方がなかった。
「あの子の飛び方に似てるような気がする」
2年前に消えたAグループの友人。
彼女とは訓練生時代によく組んで飛んでいた。でも、あんな攻撃的な飛び方だっただろうか? 確か彼女はもっと落ち着いた飛び方だった。
それにしても、復帰早々のこの戦闘はキツかった。
「ダメだ。疲れた。眠い」
どうにもこのシステムは頭と精神を酷使する。
コクピット内にエアが満たされていることを確認すると、サイドパネルの小物入れからブドウ糖のタブレットと、経口補水液のパックを取り出した。
封を切りバイザーを上げてストローを咥える。補水液で乾いた喉を潤し、タブレットを噛み砕く。甘さで頭が一瞬クラっとしたが、脳にエネルギーが送られて目が醒めるような気がした。
もう一粒、口に放り込んで噛み砕き、パックの補水液を一気に流し込む。これでずいぶんと気分も頭もスッキリした。
空のパックを小物入れに押し込み、バイザーを下ろす。
ロージレイザァまであと10分。
ラディウはもう少し近づいたら、着艦前のチェックリストを開始しようと思った。終わる頃には管制が呼びかけてくるだろうから。
管制が指示する規定の着艦コースを辿り、対艦速度と高度を合わせ、推力を調整して後部甲板に着艦。
デッキコンダクターの指示に従って機体をエレベーターに移動。停止位置を確認してエンジンを切る。
エインセルのランディングギアが固定されて、エレベーターはゆっくりと上部甲板とエアロックを通過し、下部気密デッキへ。
外部電力とデータリンクの太いケーブルが機体に繋がるのを、モニターと表示されるインジケーターで確認してから、スクリーンを切ってハッチを開ける。
メイン電源は切らずにそのまま。
「おかえり。お疲れ様」と、待ち構えていたメリナが迎えてくれた。
ラディウはヘルメットのバイザーモードを、HMSからノーマル状態に切り替える。
視界に見えていた各種パラメータが消えて、格納庫の照明と心配そうに見つめるメリナの顔がクリアに見えた。
「どこまでレベル上げたかわかる?」
「多分、やった事を考えると、レベル3か4だと思う」
着装するのと逆の手順でハーネス類を外しながら答える。
「あれじゃ仕方ないわね。先生にデータ送っておくから、デブリーフィングがおわったら必ず行くのよ」
「はい……あ、そうだ」
シートから立ち上がりかけて、ラディウはメリナの顔を見た。
「メリナさん、同じ工廠製の機体って、共通点とかどこか似ることってある?」
「そうねぇ。一概には言えないけど派生機の場合、整備コストや生産コストを抑えるために、共通パーツを使うから、似るところはあるわ」
あとは……と呟いて、メリナは少し考える。
「あとは機体のデザイナーが同じだと、どことなく似る傾向があるわね。ラボの機体だと、あなたのリウォード系とトムのファーブニル系のデザイナーは同じよ」
「なるほどね」
ラディウは一人で納得する。メリナは怪訝そうな顔をした。
「それがどうかしたの?」
「今日の侵犯してきた敵機と、シャトル襲撃事件、脱出ミッションの時の敵機が、なんとなく似ている気がしたの。後で検証してみる」
メリナから渡されたメンテナンスリストを確認し、リクエストを追加する。
「ねぇラディウ、元気になったからって、調子に乗らないで」
メリナが彼女の腕を掴み、少し怖い顔をしたのを見て、ラディウはタブレットと一緒に微笑んで返した。
「わかってる。今日はもう疲れちゃって無理です。じゃあ」
そう言ってコクピットから流れ出た。
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