第38話 彼と彼女のRequest
ボギー4はぴったりとこちらの動きを追尾してくる。相手の動きを予測しつつ振り切るよう機動するが、何かがおかしい。
ここ暫くやっていないが、ラボで同じフルスペックを使うリープカインドの、レーンやトム達とやる模擬戦のような感じがする。それにとても似ているとラディウは感じていた。
「”
ラディウは機首を少し上げてロールしながら急減速。ボギー4を無理やり前に出す。
オーバーシュートしたボギー4は機首を上げて、急角度でループを描こうとするが、その後ろを下からトルキーがマークする。
これで敵の追尾をなんとか剥がす。続いてトルキーが追いかけるボギー4を、今度はラディウが逃さないように側面からカバーする。
ティオが相手機にガンガンプレッシャーをかけてミスを誘う。しかし、1対2の癖に相手からそれほど焦りを感じさせない。
「この野郎、ロックオンしているのに逃げも避けもしやしない」
鳴り響くトーンを聴きながら、トルキーは輪を小さくして敵機を追い詰める。
普通のパイロットならとっくに逃げ出す
ラディウもまたフック呼吸を繰り返し、骨を軋ませる強烈なGに顔を歪めて堪えながら、目と意識を敵機から離さない。意思を常にロックオンし続けることを意識する。
間違いない。このパイロットも”ティオ”と同じHESだ。
後方と側面のオフボアサイトの、それも2機からのロックオンを受けても、意に介していないのが透けて見える。
敵機のコクピット内は、ロックオンアラームが喧しく鳴り響いているのを容易に想像できるが、その騒々しい音の中で一切動じる事はなく、そしてこの相手の動きを予見するような飛び方も含めて、導き出される予測はシンプルだった。
「HESのリープカインド?」
もし、相手が同じリープカインドで、こちらを読んでくるとしたら、形だけの脅しは彼らには効かない。
「〈ディジニ〉、許可をするまで私の攻撃イメージは無視」
≪Copy≫
ラディウはマスターアームスイッチを入れた。
大きく息をついて気持ちを切り替える。兵装選択を確認。Mode Missile
ステックのセレクターを操作するまでもなく、思考がそのまま反映されて、ステータスが戻される。
意識を集中させて相手を見据える。頭の中に明確に撃墜するイメージを作り出す。
すると、相手の余裕のある気配がなりを
飛び方が変わる。向こうが察知したようだ。間違いない。
「
少し遅れてスコットがCDCに呼びかける通信が聞こえた。
『CDC、”
デシーカはウィザーを見た。
ウィザーは「厄介な敵だな」と呟いて、不敵な笑みを浮かべる。
「
すぐにオペレーターが各機に命令を伝える。
「戦隊各機、CDC。
決断してからの動きは早かった。ラディウはすぐに武装をビームガンに変更する。
ボギー4はトルキーの追跡を
「くぅ……フッ……」
視界が暗く狭くなりかけるのを、呼吸で逃し気合で抗う。スーツの耐G機能で脚が痛くて動かなくなるほど締め付けられる。
相手がHESでかつ同じリープカインドだとすると、取れる手はそれほど多くない。
『CDC、"ズールー1"。敵母艦と思われるキャリアーを発見。隻数1。位置データを送信』
偵察機からの報告を受け、デシーカは位置データを確認する。
「宙域外です。どうします? 艦長」
デシーカがチラリとウィザーに目をやる。ウィザーはじっとメインスクリーンを見つめ、暫く思案する。
「一番近い小隊は?」
「”
アトリー隊なら、こちらの意図を汲んで上手く立ち回るだろうとウィザーは判断した。
「彼らを回せ。可能なら敵艦の足を止めさせろ」
「制圧部隊の手配は?」
「脅しだよ。あの4機をこちらの宙域から追い払えればいい」
「了解」
ラディウがボギー4と揉み合っている頃、ティーズ小隊の1機が直撃を受けて爆散した。
『くそっ!
ティーズ隊4番機のレオン・”チップス”・ブラウン中尉の声がスコットの耳を叩く。
ティーズをカバーしながら、スコットはすぐさま意識をテキサス――ガストン・”テキサス”・ユボー大尉――のコクピットコアに向け、彼のユニットを捕まえてシグナルをロックする。
宇宙で行方不明にするわけにはいかない。予測される漂流ルート上にラディウがいる。彼女も手一杯なのはわかっているが、スコットでは追いきれない。彼女に手伝ってもらう必要がある。
「”エルアー、”ガルム”だ!。コッペリア使いの方が適任だ。”テキサス”のシグナルを送信する。トレースを引き継げ」
少し置いて、苦しげな息遣いの彼女の声が応答する。
『”エルアー”了解』
ラディウは内心でこのクソ忙しい時に……と毒づきながらも、スコットからの依頼を〈ディジニ〉に投げる。
スコットのリンクシステムでは、フルスペックのコッペリアほど自由度は多くない。カバーできる範囲も限られている。
≪”ガルム”より”テキサス”機のシグナル情報受信。捕捉。CDCと情報共有≫
今は自分のリソースを割くことはできない。〈ディジニ〉側が自身のリソースを使ってシグナルを追尾してくれる。早く終わらせて遠くに行き過ぎる前に、ユボー大尉を捕まえなくてはならない。
耐G能力に優れたHESの飛び方は総じて荒っぽい。
対するこちらは、肉体の限界を超えてくるような動きで、体力がガンガン奪われる。ましてや相手はリープカインドだ。一緒に精神力まで奪ってくる。
こちらの限界を悟られるわけにはいかない。何より集中を切らすと相手の攻撃を避ける事ができない。
「”ティオ”! 私ではHESに追いつけない。自由に動いて! 避けるから!」
『おう! 剥がしてやるから安心しろ』
斜め下からトルキーがボギー4に威嚇射撃を入れた。
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