第8話 彼女と彼らの説明会 1
出港2日前の午後に、ラディウはティーズと一緒に艦隊本部で行われた、合同オリエンテーションへ参加した。
艦隊のオリエンテーションへの参加も、1000人を超える規模の艦に乗るのも、ラディウには初めての経験だった。
処女航海だからこの人数になるが、運用が始まると入れ替わる人員の人数にあわせて、オリエンテーションの規模は小さくなるのだと、ティーズが教えてくれた。
艦長のアルバート・ウィザー大佐をはじめとする上層部の簡単な挨拶と訓示、確認事項や注意事項の説明が行われる。
その後は休憩を挟んで各部署に分かれ、顔合わせを兼ねたオリエンテーションが行われた。
飛行戦隊の
「適当に座っていなさい」とティーズに言われ、ラディウは角の方の席に座った。
大人達の中で、明らかに10代の少女がいるのは不自然に目立ち、好奇の目に晒されるがそれはもう慣れていた。この程度で動じることはない。
ラディウは周囲を観察する。
女性はそれ程多くはない。
顔見知り同士が再会を喜んだり雑談を交わしている中、人をかき分けて前の方に行ったティーズは、知り合いと思しきパイロット達と親しげに談笑をしている。
暫くしてパンパン! と大きく手が打ち鳴らされた。全員の注意が前に向く。
「時間だ。全員注目! 始めるぞ!」
その声で賑やかな室内が一瞬で静かになり、立っていた者は近くの席に座る。
正面のスクリーンの前に、精悍な顔立ちのスキンヘッドの男性将校が立っていた。
「戦隊長のジャン=ルイージ・"グリフォン"・デシーカ中佐だ」
そう名乗った中佐の目つきの鋭さは、彼のコールサインである"グリフォン”を彷彿させる。
「まず、飛行中隊からだ」
彼の左右には、大尉の記章をつけた、栗色の髪の女性士官と、ティーズとそれほど背の変わらないアラブ系の顔立ちの男性大尉が立っている。
「第一中隊はアトリー・”グルース"・キスケ大尉、第二中隊はエルヴィラ・”アグーダ”・アスターナ大尉に統括してもらう。情報部のラベル・”カリマ”・ティーズ大尉は第一中隊第二小隊長だが、戦隊のオブザーバーも兼ねる」
三人三様に頷いたり、笑みを浮かべて全体を見回す。
「次に
ラディウはタブレットに目をやり、送られた新しい資料を見る。
ティーズの小隊を見つけたので、そこを確認したが自分の名前が無いことに驚いた。
今まで任務の時はティーズと組んで飛んでいたので、今回も当たり前のように彼の
自分の名前を探してリストを追っていくと、第二中隊アスターナ隊の4番機に振られている。
驚いて顔を上げて、前方のティーズを目で追った。一瞬だけ彼と目があったが、意図的に目線を逸らされた。代わりにエルヴィラ・アスターナ大尉と目があう。
彼女は好意的な笑みを投げかけて、ラディウは戸惑いつつも軽く頭を下げた。
「よし、全員確認したな? 席替えの時間だ!」
デシーカの声で全員が立ち上がり、それぞれ割り振られた中隊の、小隊ごとに座り直した。
最前列は幹部席なので2列目の右端に座る。
隣に大柄で短髪のトルコ系の男性が座った。中尉の階級章が見える。ラディウはチラリと手元のタブレットに目を走らせた。
トルキー・”ティオ”・オーダバーシ中尉。この
「よろしくな」と彼はささやく。
全員の席替えが終わったのを確認し、デシーカは「では、再開する」と言って正面の大型ディスプレイに資料を映し出しながら説明を始めた。
「まず、今回の任務は新造艦の運用評価だ。実戦配備と同じ状況で運用し、問題点や改善点を徹底的に洗い出す」
フライトスケジュールと訓練内容のリストが画面に表示される。
「そのため離発艦を伴う訓練、飛行訓練、戦闘訓練は実際の運用に準じて昼夜問わず行われる。諸君らには通常のレポートのほか、パイロット目線からの問題点もレポートして欲しい」
デシーカ中佐の話は続く。
「また、この任務は各員の評価試験でもある。特に若手でロージレイザァに残りたい者は心してかかれ」
室内全体がピリリと引き締まる。
通常の報告書に加えて評価レポートとは、これは大変だとラディウは思った。
「機付きで機体搬入がまだの者は、明日の15時までに終了させる事。乗員のチェックインは同日17時までだ」
出港までのタイムスケジュールが表示される。
「万が一遅れる場合は
その後はいくつかの注意事項、規則の確認の後に部屋割りが送られる。
パイロットと士官は基本的に1人部屋とされているが、経験の浅い少尉のうちは、2人部屋になることも多い。
実際に今回は二人部屋だった。同じ
長めの黒髪を綺麗に一つに纏め、気の強そうなアーモンド型の瞳が前を見つめている。
ラディウが艦艇で誰かと部屋をシェアするのは、狭いキャリアーではよくあることだったが、いつも顔なじみの技術者や、同僚のキャサリンと一緒の時ぐらいで、初対面の人とは経験がない。
今回は本当に、初めてのことだらけだと、ラディウは思い緊張した。
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