第27話 彼と彼女のRelation 3

 爆発の衝撃波を正面からまともに受けて、小さなドラゴンランサーは、もみくちゃにされながら吹き飛ばされた。


 機内ではラディウがグリップにしがみついて耐え、ヴァロージャが必死で機体を立て直そうとする。


「クッソ……舵が効かな……」


 ピーピーと耳障りな音がする。


 マスターコーションランプが点灯し、ラディウが冷静に報告する。


「右エンジンストール!」


 生きているエンジンの出力を下げてバランスを取り、機体の安定を取り戻すが手応答があまりない。左エンジンの出力が急速に低下している。


「勘弁してくれ……」


 これは左もじき止まるなと思っていたら、案の定だった。


「左エンジンストール! 電圧低下中」

「クッソ……」


 悪態をつきながら、残った予備スラスターを使ってなんとか機体を安定させる。


「エンジンの再始動!」

「了解。EPU起動。エンジン再始動……」


 ラディウがチェックリストを見ながら手順を追っていくが、なんの変化も起きなかった。


「だめ、反応しない。もう一度やる?」

「そうだな、もう一度やろう」

「了解。エンジン再始動チェックリスト……」


 3回試しても変化がないため、次に2人は現在位置の把握に努めることにした。


 衝撃でかなり飛ばされたのはわかっている。


 ジャミングの影響は無く、既にレーダーや無線は回復していた。


 ラディウは通常レーダーの範囲を切り替えて走査するが、所詮は内海と言われるコロニー近郊専用機の装備品だ。走査距離も短く、当然それらしい敵味方の機影は拾えない。


「リンクシステムで何かわかるか?」

「やってみる」


 ラディウは意識を外に向けてみるが、先ほどまでの全てが目の前に広がるような感じは消失し、システムが起動している時ほどの手応えを感じない。


 至って普通の状態におかしいと思い確認すると、肝心のシステムがダウンしていた。


 再起動手順を確認して復旧させたが、それでも手応えがなかった。


「ごめん……わからない……」


 2機のFAが破壊されたのは確認したが、残り1機は見ていない。そのため救難信号を出すのも躊躇ためらわれた。


「そっか……とりあえず、最寄りのウェイポイント地点情報を探して位置を知ろう」

「了解」


 ラディウが情報パネルを操作しはじめた時、再びマスターコーションが鳴った。


「今度はなんだ」


 ヴァロージャがやれやれと言った感じで、警報を解除しながら表示を確認するが、その横でまた別のアラームが鳴った。


 キャビン内酸素残量が減っている。どこかで空気漏れが起きているようなのと、仮にエンジンの再始動ができたとしても、加速するための推進剤がほとんど尽きかけていることを示していた。


「機内環境維持システム停止。緊急用生命維持システムに切り替え。こちらは異常ないわ」


 ラディウは努めて冷静にスイッチを操作し、報告する。


 競技用に補強もされているとはいえ、機体にかかった負荷は想定以上のものだったのだろう。フレームが歪めば酸素も漏れる。


「……予備酸素含めてどれくらい持つ?」

「正味7時間ってところかしら」

「そうか……」


 非常用電源が動き続ける限り酸素を生産するが、それが尽きたら終わりだ。


 この船にはメテルキシィのような救命ポッドのシステムなんて無い。だから薬で眠ったまま、酸素切れで死ぬこともない。ジワジワと迫り来る最期の時間に身を任せるしかない。


「1週間に2回も漂流なんて、とんだ災難に巻き込んでしまってすまないな少尉」

「巻き込み、巻き込まれはお互い様よ。気にしないで少尉」


 そう言ってお互いクスリと笑う。そして、少しだけ無言の時間が過ぎる。


「1人より心強いよ」


 そうラディウは呟いて目を閉じて大きく深呼吸をすると、静かな暗い闇が広がる世界をイメージする。


 このまま死んでいくかもしれない状況だが、ラディウの心は驚くほどスッキリしていた。 


 色々な出来事があった。嫌なことも苦しいことも、何かと制限も多い5年間だったけど、飛ばしてくれる環境は良かったと思う。


 想像と違ったけど、FAのパイロットになると言う幼い頃の夢は叶ったし、良い仲間にも会えた。最後のフライトで面白い体験もできた。あの一体感は今まで感じたことがない。


 もう何にも縛られず、永遠にここを漂うのも悪くない。


 うん、悪くない。

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