第10-02話 彼と彼女を探してる 2
行き先と次の駅を知らせる車内アナウンスと、乗客の他愛のないおしゃべりが聞こえる。
「ところで、メールは調べたの?」
小声でそっと尋ねる。
「あぁ、あっちこっち経由していてすごかったよ。結果どこだからだったと思う?」
「……わからない。どこ?」
「いろんなところ。それこそ、このコロニー群だったり、セクション2だったり、4だったり月に地球……」
ヴァロージャは天井を仰ぐ。
ドア上のディスプレイが来週のレースのCMを流していた。
「ちょっとまって、月はともかく……地球からはありえないでしょう。お祖父様たち一般市民よね? どうやって降りるのよ」
ラディウが驚くのも無理はない。
地球は本当に限られた人しか降下できない特別な場所だ。降りる事ができるは、元々地球に棲む人ぐらいだ。それでも全ての人口の一握りしかいない。
「だろ? なにより同一アドレスなのに、全てのメールの発信元、経由サーバーが全部違う。転送に転送をかけているような感じで、俺では追いきれない。最後のメールの発信源はセクション5の『デアトラウム』だったけど、そもそも……」
ヴァロージャはラディウの方に顔を向けた。澄んだヘーゼルブラウンの瞳が不安げに揺れる。
「俺は本当に、じいさんたちとメールのやり取りをしていたのか?」
「それは……」
ラディウは何も言えないまま、視線を逸らす。
ふとその時、妙な違和感を感じて窓の反射を利用しながら車内を観察した。
港湾労働者風の人や疲れ切った顔のビジネスマン、おしゃべりに夢中の女性たち、一心にモバイルに耽る乗客などがまばらに座る中、スーツ姿のビジネスマン風の男が2人、こちらを窺っているように見えた。
何かが引っ掛かる。心の中で警戒のイメージが浮かぶ。こういう時の直感は素直に従った方がいい。
「ねぇ、振り向かないで確認して。あなたから見て5時。ビジネスマン2人。お知り合い?」
ラディウがそっと確認を促す。
ヴァロージャも窓ガラスの反射を利用しながら斜め後方の様子を確認した。
「……知らないな。どうしたんだ?」
「わからない。視線を感じる。よくない感じ。離れたい」
ラディウは行き先案内板を眺めて呟く。
車内アナウンスがまもなく駅に到着する事を告げる。
「わかった。次の駅で降りよう」
入線した少し大きな駅には、多くの客が待っていた。
ドアが開き、ラディウとヴァロージャはドアの脇で降りる人の邪魔にならないように避ける。
続いて乗車する客の列が車内に流れ込んできた。
発車ベルが鳴るタイミングで2人は頷き合うと、乗車する人の流れに逆らって強引に車両から降り、ホームの階段を駆け上がった。
ラディウがチラリと背後を確認すると、先ほどのビジネスマンの内、1人だけ列車から降りる事ができたらしく追ってくる。
「ビンゴよ! 1人くる。走って!」
2人は猛然と階段を駆け上がり、改札を駆け抜けて地上出口に向かう。繁華街らしく通路には人が多い。
「2番の出口に向かえ!」
2人はそれぞれ歩行者を避けながら、同じ出口を目指して走る。歩行者にとっては迷惑極まりないが、彼らを気遣うことも、後ろを見ている余裕もない。
階段を駆け上がり合流すると、すぐに近くの裏路地に飛び込んだ。そのまま走って、いくつかの角を曲がり、別の通りに面する路地へ出た。
一旦ここで呼吸を整える。
「敵は確認できたのが最低2人、追ってきたのは内1人。バックアップに何人ついているか分からないけど、私かあなたのどちらかがマークされてる」
路地の端に人影が見えた。先程の追跡者だ。残念ながら撒けてはいなかった。
休憩は終わりだ。二人はもう一度走り出した。
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