第24話 サヨナラ、彼のHome Town 2

 二重の後部ハッチの外側から少し遅れて内側がゆっくりと開くと、スクリーン越しの目の前には様々なカラーリングの船が、後部ハッチをタクシーウェイに向けて、整然と並んでいる光景が映し出された。


 停船している場所が宇宙空間なので、航行灯を点灯し、各船の位置を知らせている。舷側の窓明かりやデッキ内の光もあって、まるで煌びやかなイルミネーションの大通りにいるようだった。


 見るのと感じるのとは大違いだ。ラディウは思わず「綺麗……」と呟く。


「凄い……こんなの初めて」


 思わず口にすると、ヴァロージャは嬉しそうな笑みを見せた。


「この光景は、こうして現場に来ないと見れないんだ」


 正面にサムソンが誘導に出てきた。


『安全索接続完了! 固定ロック解除! 誘導するぞ!』


「了解、頼む!」


 ヴァロージャはゆっくりとドラゴンランサーを浮かせ、前進させた。






 ドラゴンランサーはラグナス1の格納庫を出ると、縦横にスライドしながらラグナス1の左側に寄せて停止した。


 すぐにサムソンの手で係留索と有線通話のケーブルが接続される。ここからは予定の時間まで待機になるので、その間に発進前の最終チェックリストを行う。


 全てのチェックリストを完了すると、ラディウはスミスから受け取ったメモを広げ、左腕の端末に数列を入力した。今の状態で間に合わなくなった時の切り札だ。チェックを兼ねて、少しだけ自分の感覚を広げてみるが、いつもとそれほど変わらない気もする。


 意識をブリッジに向けて見る。ヤマダ、ユキがいる。今、Dr.スミスが上がってきた。


「みんな、とてもいい人達だった」


 ラディウはポツリと呟く。


「あぁ、最高のチームなんだ」


 誇らしげな、でも少し寂しげなヴァロージャの心を感じる。


『こちらブリッジ。まもなく2回目のテストにロナウド機が出る。ドラゴンランサーは予定通りに行け……二人とも元気でな』


「社長も、皆もどうかお元気で」

「お世話になりました」


『ん……じゃあな……無線交信をユキに替わる。有線通話解除。交信チャンネル112.9ワンワントゥーポイントナイナー


「了解。有線通話解除。チャンネル切り替え112.9」


 コンと有線用のケーブルが外れた振動が伝わった。確認のためのマルチモニターには、スルスルと舷側に巻き取られるケーブルが映っている。


「有線ケーブル分離チェック。分離完了」


 ラディウが確認報告を行う。

 

『ラジオチェック。こちらラグナス1、ロナウド聴こえる?』


 ユキのよく通る声がスピーカーから聞こえてくる。


『こちらトルエノ、ゼッケン4ロナウド、感度良好だ』

『了解。DRL1、聴こえる?』


「DRL1、聴こえています」


『了解。これよりDRL1の係留を解除します』


「DRL1了解」


 ラディウはヴァロージャと視線を交わし、頷き合う。


 微かな振動が機体を揺らし、係留索が外れて巻き取られるのをモニターで確認した。


 通信と機体モニタはラディウの担当だ。


「係留索の離脱を確認」


『DRL1、3分後にトルエノ4が出ます。その2分後にラグナス1を離脱。試乗に出てください。その後、場内管制135.8ワントゥリーファイフポイントエイトと交信してください』


「DRL1 了解。トルエノ4離脱から2分後にラグナス1を発進。場内管制135.8と交信」


 ラディウが復唱して通信を終えると、ヴァロージャが「複座機なんて訓練生の頃以来だ」と話しかけてきた。


 確かに、初めて実機で宇宙を飛んだ時は、教官と一緒だった。シミュレーターとは違う本物の感覚と動きに圧倒されたのを覚えている。


「すごく緊張したの覚えてる。特に初めての着艦が1番緊張した……ん、トルエノ4の発進1分前」


 ラグナス1の後部格納庫から、ゆっくりとロナウドの、ゼッケン4をつけたトルエノが出てくる。


 コクピットの脇にサポートのメカニックが張り付いているのが見えた。


 ユキとロナウドのやり取りが聞こえてくる。


 最後に『トルエノ4離脱、コースに向かう』とロナウドの声が聞こえた。


 モニターに細かくスラスターを吹かせながら、ゆっくりと船を離れていくロナウド機が映っている。


「ヴァロージャ?」


 親友の機をいつまでも見ていたいが、ラディウの声がヴァロージャを現実に引き戻す。


「あぁ、ごめん。トルエノ4離脱を確認。タイマーセット」

「了解。タイマーセット確認」


 復唱するラディウの声を聞きながら、頭を切り替えて集中しようと、ヴァロージャは数回、大きく深呼吸する。


 やがてタイマーがピピと音を鳴らし、出発時間を告げると、二人は顔を見合わせて頷き合った。


「じゃあ、行きますか」

「了解、機長」


 ラディウはおどけるように言うと、管制と交信を始めた。


「こんにちは場内管制、こちらDRL1、試乗コースに向かう許可が欲しい」


『こんにちはDRL1。試乗コース了解です。ガイドビーコンを発信します』


「ありがとう。DRL1」


 程なくしてビーコンが送られてきたので、それを受信する。これに乗れば自動的にコースまで誘導してくれる。


『お待たせしましたDRL1、出発してください』


「こちらDRL1、了解。行こうヴァロージャ」

「あぁ、駐機モード解除」

「了解、駐機モード解除」


 復唱して操作。

 ヴァロージャの操縦で少しだけエンジン音が上がる。


「ガイドビーコンロック、ガイドタキシングモードON」


 ヴァロージャは左手のスロットルコントローラーのセレクターを操作する。


 ドラゴンランサーはゆっくりと試乗コースへ向かった。

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