第21話 彼と彼女のAbilities 1


 ギャレーの片付けを終えて、シャワーを浴びる前に最後にもう一度、ドラゴンランサーのおさらいしておこうと思い立ち、ラディウは格納庫に向かった。


 この船には格納庫の手前にスーツ室がある。


 中に入るとスーツを収めるロッカーが20個並び、ヴァロージャが自分の装備品の確認をしていた。


「あ、そういえば私のスーツって……どうなっているんだっけ」


 すっかり忘れていた。ラグナス2に置きっぱなしじゃない? と背中に嫌な汗が流れる。


「サムソンが回収して、12番に入れたって」


ヴァロージャがそう言ってヘッドセットを持った手で指し示す。


「よかった……」と胸を撫で下ろし「サムソンさんありがとう」と、本人のいないところで手を合わせて感謝を捧げたところで、ラディウはヴァロージャが手にするヘッドセットに気づいた。


「あ……それ……」

「ん? これ? 明日使えって先生が……」


 そう言ってロッカーに片付ける。


「調整……何やったの?」


 極力平静を装いロッカーを開け、自分の装備を確認しながら尋ねる。


「ん? なんか、指示通りイメージしろって言うのを数パターン?」

「それだけ?」


 ラディウの問いかけに、ヴァロージャは怪訝そうな表情を浮かべる。


「それだけだけど?」

「そう……」


 手を止めてラディウは考える。


 大切なのは2人で帰還する事。これは最優先事項だ。


 そのためには、自分の持てる能力を最大限発揮する必要がある。


 思うところは色々あるが、目的達成の為には、個人的な感情は挟み込まない事が重要だと、自分に言い聞かせる。


 気のせいか、ティーズの顔が脳裏をチラつく。


 帰還した時に不満をぶつけても、きっと片手であしらわれるだろう。いや相手にされないのは解ってる。だからといって、今ここでヴァロージャにぶつけるのはお門違いだ。今は自分の仕事をする。


 そう決めると、ゆっくりと数回深呼吸をしてから、ラディウは確認作業を止めてロッカーを閉めた。


「決めた! もう隠し事は無し! スミス先生を呼んで、今からリンクチェックしよう」

「はぁ? どうしたんだ? 突然」

「それを持って機体で待ってて」


 ラディウは船内通話用のハンドヘルドを手に取ると、スミスを呼び出した。






 ラディウはいくらか手慣れた手つきで計器やモニター類のチェックと操作を行う。


 かなり練習したのだろうと、彼女の動きを眺めながらヴァロージャは思った。


「よし。手順は頭に入った」


 そう言うと、続けて増設したシステム関係を立ち上げて、チェックリストを確認していく。


「起動確認。チェック完了です」


 機体の外では端末を手にしたスミスが、彼女の作業を監視モニタしている。


「チェック確認。センサーテストパターン1から10まで一気にやる。いいね」

「了解。いつでもどうぞ」


 ヴァロージャと同じヘッドセットをつけたラディウが、コ・パイ席で膝の上で手を組んでじっと前を見つめている。その視線の先は厚い2重のハッチだ。


 ピピッと電子音が鳴り、ヴァロージャは自席のレーダーモニターを見た。


 すると、ドラゴンランサーを中心に近隣の船がレーダーに映り、操作をしていないのに、その範囲が徐々に広範囲になる。


「凄い……」


 ヴァロージャは思わず感嘆する。


「次、パターン11から20」


 刻々と情報が切り替わる。


「彼女がいれば、ステルス機の探知も、万が一レーダーがジャミングされても何とかなる」


 スミスはそう言いながら、画面をタッチして作業を進める。


 やがてラディウは、大きく息をついてスミスを見上げた。


「……これ以上は」

「15……。うん、支援システム無しだからもうこれで充分だ。休憩する?」

「時間が惜しいので、このまま続けてください」

「わかった」


 次にスミスはヴァロージャに遠、中、短距離レーダーの機影を、軍用機のHMDで行うロックオンのように目で追うように指示をした。


 そうして、いくらかヴァロージャ側の調整をした後、今度は異なるパターンで2人で同じようにマークさせる。それをラディウがほぼ同じタイミングで機影をマークしていく。


「支援システム無しでここまでとは……逸材じゃないか。ジェドめ、これは面白いな」


 キーボードを叩きながらスミスが小さく呟く。


「ラディウ、リンクシステムは問題なく動いているが、情報量はどうだ?」

「この程度なら、大した負荷ではないです。大丈夫です」


 何度か同じ操作を繰り返し、適時ヴァロージャ側にも調整を加えて、スミスが終了を告げた。


「いいよ二人とも。調整できた。もう終わりにしよう」


 ラディウはヘッドセットを外し、ふぅ……とシートに深くもたれかかる。

 ヴァロージャは目を丸くして隣の少女を見つめた。


 噂で聞いたことがあったが、実際に目の当たりにするのは初めてだった。


「まさか……君は、リープ……カインド?」


 ラディウはゆっくりと顔を上げ、ヴァロージャを見る。


「……そうらしいよ。マシンに繋がってないと役に立たないけど」


 そう自虐的に言うと、すこし寂しげな笑顔を見せた。

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