第9-01話 彼らのHappy Circle 1
昨日より人数が多い夕食は賑やかだったし、ユキの手料理はどれもとても美味しかった。
「3日前から、ミズ・ハンナがギックリ腰で休んでいるから、昼と夜はずっとケータリングとファストフードだったんだ」
ハロルドはそう言って肉をほう張る。
「あぁ、それで冷蔵庫が空だったのね。それに家が綺麗だったから全く気づかなかったわ」
「掃除と片付けはヴァロージャとラドがやってくれた。おかげで助かったよ」
「居候だし、それぐらいはやらないと」
掃除や整理整頓は、軍隊で最初に叩き込まれる必須スキルだ。ヴァロージャは照れくさそうに笑う。
「あぁそうだ。ラド、紹介しておこう。こちらのスミス先生は、普段は街で内科のクリニックをやっているんだ。先生もレースをしていて、大きなイベントの時はチームドクターとして来てもらっている」
ヤマダの紹介にスミスは食事の手を止めて、優しそうな笑顔をラディウに見せた。
「よろしく。えぇっと……」
「ラディです。ラドと呼んでください」
ラディウもニッコリと微笑んで返す。
「ねぇ、ラドは学校で何を勉強しているの?」
隣に座るユキが興味津々で聞いて来た。
「えっと、航宙システムとかです」
「へぇ〜将来は航宙業界?」
「そうですね……今のところは……」
当たり障りの無い返事をしながら、シチューを口に運ぶ。煮込まれた玉ねぎが甘くて美味しい。
「でもまた、何故ウチに?」
「えっと……研究題材探している時に、ホビーの事を教えてもらって調べていたら、良いチームがあるって紹介されたので」
ラディウは咄嗟に設定を組み立てた。
「聞いた? パパ。良いチームだって」
ユキは嬉しそうに向かい側に座るヤマダに伝える。
「ラグナスは良いチームだよ。ロナウドっていう速いライダーがいるし、メカニックの腕も一流!」
ヴァロージャがさりげなく別の話題に持って行こうとする。
「そこのヴァロージャはホビーの経歴引っ提げて、士官学校受かっちゃうしな!」
ハロルドは肘でヴァロージャをつつき、ヴァロージャはくすぐったそうに身を捩る。
「あぁそうか、ヴァロージャは卒業してから初めての帰省か!」
スミスは「立派になって」と親戚のおじさんのような事を呟く。
「今はフォルルで艦隊勤務です」
ヴァロージャも嬉しそうだ。
「遅くなったけど、今度お祝いを贈るよ」
スミスは炭酸水の入ったグラスを掲げる。
その後は来週のレースの話しを中心に話題は目まぐるしく変わり、いつまでも楽しいお喋りに花が咲く。
食後のお茶を飲みながら、ヴァロージャはユキから渡された名刺をヤマダ達に見せ、ユキは失礼な訪問者の事を話した。
「その名刺の男なら今朝、私の病院にも来たよ」
そう言って、スミスはユキの名刺と同じものを財布から出して見せた。
「他にもヴァロージャが立ち寄りそうな場所を尋ね歩いてるってこと?……なんか気持ち悪いわ」
ユキは薄気味悪そうに名刺を見る。
ヴァロージャを探す謎の男が、消えた祖父母の手がかりの可能性もあったが、不審過ぎて決め手にかけるのは、皆同じ意見だった。
「本社に来たら、俺に直接通すように話しをしておく。皆もヴァロージャがここにいる事は部外者に言わないように、頼むな」
ヤマダがそう皆に頼むと、「了解」「わかった」と口々に同意の返事をする。
「ヴァロージャ、久しぶりにシミュレーターやらないか? この間の地区戦のコース入れたんだ」
ハロルドの誘いにヴァロージャは応じて立ち上がる。
「それじゃあ、みんなで対戦しようぜ」
「いいね」
「お手並み拝見だ」
ガタガタと皆が立ち上がるのを、ラディウは興味津々で見上げていると、ヴァロージャが振り返り、手を差し出した。
「君も一緒に行こう」
ラディウは頷き立ち上がり、その手を取った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます