第7話 2人が駆る機鋼鎧
「うっはははははははははは!! おらおらぁ!! 邪魔だぁ!!」
No.4は現地に着くや、目につくブルートを片っ端から斬りふせていった。No.4の装着している機鋼鎧 《ネイキッド》は通常のものよりも一回り大きい。
全体的に厚みのあるシルエットをしており、背に装着されているバックパックも相応の大きさをしている。
また右手には大型ブレードを、左腕には4連ステークが装着されていた。No.4はそれらを重さを感じさせない動きで振るい、次々とブルートを仕留めていく。
「す……すげぇ……!」
幸いなことに第三部隊には被害者が出ていなかった。大群に取り囲まれる前に、撤退を意識した行動をしていたのだ。早い段階でNo.4と合流できたのは幸いだった。
五人の公殺官たちは、No.4の戦いに加勢することなく見守っていた。というのも身に纏う機鋼鎧も武器も大型なため、下手に近くで戦うと巻き込まれる恐れがあったからだ。五人は第三部隊の護衛に専念していた。
「雑魚が! 雑魚が雑魚が雑魚がぁ! 砕け散れぇ!」
重量を感じさせる大きさの割にその動きは俊敏で、ターンからの姿勢制御も安定している。よくあんな動きをしながら戦えるものだと、その場にいる公殺官たちは感じていた。
だが多勢に無勢という事実には変わりない。ブルートがNo.4を全方位から取り囲む。
「あ、あぶない!」
「どうする……!? 助けに入るか!?」
判断に悩む公殺官たち。だが次の瞬間、不可解な現象が発生した。No.4を取り囲んだブルートたちが急に燃えはじめたのだ。
「え……!?」
「うっはははははははは!!」
だが中心にいるNo.4は、炎の影響を受けていなかった。それどころか、機鋼鎧全体に青いラインが光っており、僅かながらその形状を変化させている。
「ネイキッドォ! もっとだ! もっと俺の力を解放しろおぉ!」
さらに巻き上がる火柱。まるでNo.4が魔法でも使って、その炎を発現させているかの様だった。
■
「さて……と」
No.2は専用の機鋼鎧 《グランヴィア》の中に入る。白を基調とするその機鋼鎧は通常の物と大きさも変わらず、その輪郭は一見すると華奢な印象があった。
バックパックも他の機鋼鎧よりも薄型なため、より華奢な印象を抱かせる。No.2は同じく白を基調としたボード状の物体、《スカイホーク》に足を固定させた。
「いいよ。出して」
No.2の合図と同時に床が開く。瞬く間にNo.2は重力に従い、《ユーノス》底部から外へとはき出された。
「……アーク・ドライブ、接続完了。いくよ」
瞬間、スカイホーク後部に装着されていたブースターに火が灯る。そのまま宙を滑る様な動きで、No.2は猛スピードに到達した。
各種センサーに目を通す。どれも基準値内、異常は見当たらない。
「……あれか」
こちらも《ユーノス》を出て、あっという間に目的地へと到着する。No.2の眼下にはクラス5のブルートが確認できていた。
そのブルートはNo.4が相手しているものより一回り大きかった。
確かに魔力反応も検知している。見たところ第五部隊も逃げの一手をとっており、奇跡的にまだ被害が出ていない様に見えた。
「ふふ」
気付けばNo.2はクラス5のブルートを前にして、笑い声が漏れ出ていた。
昔ある施設にいた時。そこで知り合った少年に見せてもらった恐竜図鑑。眼下のブルートは、その図鑑に描かれていたトリケラトプスという恐竜にそっくりだったのだ。
「本当にいたんだ。トリケラトプス」
人が箱舟で脱出する前の世界、かつてそこに存在したと言われている古の獣。No.2の脳裏には、少年が目をキラキラさせながら話していた時の出来事が描かれる。
一瞬仮面の下が笑顔になりそうになって……すぐに無表情に戻した。
「……鬱陶しい」
《スカイホーク》の前部が形状を変化させ、銃口が現れる。そこから高火力の銃弾が絶え間なくブルートに向けて放出された。
第五部隊はこの一撃でNo.2の存在に気付く。だが当のブルートに、その銃弾は一つも届いていなかった。
「やっぱりだめか」
魔力を持つレヴナントやブルートは、常に魔力を全身に纏っている。それがバリアの役割を果たすため通常兵器の類は通じない。No2は当然その事を理解していた。
今の攻撃はブルートの注意を第五部隊から自分に向けさせるためのもの。ブルートは新たに現れたNo.2に威嚇行為を見せており、すでにその役割は果たしたと言える。
「それじゃ……いくよ」
《スカイホーク》から飛び降り、滑空中に背中のバックパックから槍を取り出す。
「アーク・ドライブ、起動」
瞬間、槍の穂先が青く輝いた。その輝きはノア・ドライブとは違い、見る者にどこか畏怖の感情を抱かせる暗いものだった。
No.2は重力も味方につけ、槍の先端をブルートに突き立てる。
「ブアァァァ!?」
その一撃は易々とブルートの身体を貫いた。だがブルートも激しく身をよじり、背部が白く光りだす。
「まず……!」
No.2は槍を引き抜く事をあきらめ、素早くその場を退いた。ほぼ同時にブルートの背から魔力の波動が放射される。
背に刺した槍も余波を受け、吹き飛ばされていた。No.2は無手になったが、そこに焦った様子は見られない。
「スカイホーク。二番、出して」
宙を翔けていた《スカイホーク》底部からもう一本の槍が放出される。その槍は寸分の狂いなく、No.2の真横に突き刺さった。
No.2はそれを手にとると、再びアーク・ドライブを起動させる。
「一本無くなったけど。クラス5を仕留めるための必要経費だし」
No.2はブルート目掛けて地を駆ける。その速さは並の機鋼鎧を大きく凌駕していた。
ブルートは頭部の角から魔力の波動をNo.2に向けて何度も放つが、その動きを捉えることができない。
「遅いよ」
通り過ぎ様にブルートの肉体を斬り裂いていく。距離をとり、また近づいては切り刻む。No.2の速さだからこそ可能な、ヒットアンドアウェイ戦方だった。
「さすがに……致命傷には遠いか……」
一見するとNo.2が一方的な展開を見せている様に見える。しかしブルートに衰えはまったく感じられなかった。
さらにブルートに攻撃を加え続けるが、槍の耐久性が限界を迎え、折れてしまう。No.2はその場に槍を捨てると一度大きく距離をとった。
そうして三本目の槍をスカイホークから射出しようとした時、異変が生じた。
「え……」
これまで頭部の角を起点に魔力を発生させていたブルートが、大きくその口を開いたのだ。そこから計測される魔力量と瘴気濃度に、《グランヴィア》の計器はうるさく音を立てていた。
「二回目の……まず……!」
ブルートの口を起点に、大型の魔力波動が扇状に放射される。素早い動きが可能なNo.2を以てしても、ブルートの攻撃有効範囲から逃れる術はなかった。
なので。
「イージス、展開」
《グランヴィア》の全身に、青いラインが光り輝く。同時に手足のプレートが一部展開され、その形状に変化が生じた。
No.2はブルートの魔力波動を正面からまともに受けてしまう。だがNo.2の眼前には不可視の障壁が展開されており、魔力波動の影響を受ける事が無かった。
攻撃が止み、周囲に目を向ける。No.2が立っていた場所を除き、周辺の地表は大きく抉れていた。
「理論上はクラス5までの魔力波動に耐えられるのは分かっていたけど」
ブルートからクラス5相当の魔力反応が消失する。一時的な魔力ロス状態に陥っているのだ。放っておけばすぐに回復する。だがそれを許すNo.2ではない。
「三番、四番。射出」
No.2の意思に答え、《スカイホーク》は二本の槍をNo.2とブルートの間に射出する。No.2は駆け出しながらそれらを手にとり、同時にアーク・ドライブを起動させる。
「はあぁっ!」
ブルートも重量を活かした動きで抵抗するが、さすがにNo.2は捉えきれない。
No.2は《グランヴィア》に搭載されているブースターもフル稼働し、素早い身のこなしで次々に槍を突き入れていく。
「まだ倒れない……! もう……!」
十分に手傷を負わせているのに、ブルートに倒れる気配は感じられない。No.2はさすがクラス5と感心しつつも、もう一つ切り札を切ることを決意する。
「稼働時間も限られてるんだし……。これで決めるよ!」
ブルートに倒れる気配はなくとも、確実にその動きは鈍くなっている。No.2は目にもとまらぬ速さでブルートの側へと移動し、そのまま《グランヴィア》の左手をピタリとくっつける。
「じゃあね」
瞬間、触れた左手から先ほどブルートが見せた様な魔力波動が放出された。
しかしブルートとは違い、放出されたエネルギーはレーザー光の様に絞られている。
「ブフオオォォォォ!!」
レーザー状の魔力波動はそのままブルートを容易く貫く。No.2は放射したままの左腕をそのまま上へと振り上げた。
ブルートは大量の血をまき散らしながら、その身を半ばから焼かれ、地に伏せる。そのまま二度と動き出す素振りを見せる事はなかった。
「ふぅ……」
No.2は左手を開いたり握ったりを繰り返し、調子を確認する。今の切り札は距離を空けるほど威力が落ちるもの。一度しか放つつもりが無かったため、確実にこの一撃で決めるという決意をしていた。
「クラス5といっても、このタイプのブルートじゃこんなものね……」
同じクラス5のブルートでも、過去の記録ではもっと巨体だったものも存在する。No.2は自分一人で対処できるレベルのブルートで良かったと思っていた。
だがその一方で、助けられた第五部隊の面々は。No.2が最後に放った切り札が、ブルートやレヴナントしか持たないはずの魔力によるものに見え、畏怖と恐怖の目でその姿を見ていた。
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