第44話:披露宴




 会場に一歩足を踏み入れると、拍手で迎えられた。

 上座にあるテーブル3つのうち、2つはもう埋まっている。

 バーナビー王子とマーガレット様、アンブローズ様とアイリス様は、既に入場していたのね。


 3つ並んでいるテーブルのうち、真ん中が空いている。

 第二王子より聖女の方が格上になるのね。

 マーガレット様とアイリス様が小さく手を振ってくれた。

 私も小さく振り返す。


 私達夫婦が席に到着すると、両脇のカップル……いえ、もう夫婦ね……も立ち上がった。

 三人で会釈をする。

 その瞬間、私達を光が包み、着ていた衣装がウェディング用から披露宴用に替わった。


『衣装替えは任せて!まずはウェディング衣装のままで入場して大丈夫よ』

 そう言っていたのは女神様だ。

 途中で退場しての衣装替えだと思っていたのに!

 神の力の無駄遣い!!


 いや、会場は大盛り上がりですけどね!

 演出としては、大成功ですけどね!!




 お決まりの挨拶がされている間、私達は料理を食べていた。

 グラスが空くと、光の玉が追加を持って来てくれる。

 赤ワインだけど、ほろ酔い以上にはならない特別仕様なお酒なんですって!

 でも赤ワインだけじゃ飽きるよね~と、密かに思ったら、ロゼのスパーリングワインが運ばれて来た。


 もう何も言うまい、いや、思うまい。


 給仕をしてくれているのは、普通の人間である。

 花婿側の使用人達ね。

 フルーツはコース料理と関係無く、テーブルの空いている場所に置かれる。

 置いた端から無くなっていくのが主役席からも見えて、コッソリと笑ってしまった。



「楽しそうだね」

 横のバージルが話し掛けてきた。

「天使の果物がね、置かれると手品のように消えるのよ」

 皆の食べる速度の早い事を揶揄して言うと、バージルがフォークで果物を刺し、私の顔の前に差し出した。


「はい、あ〜ん。皆の気持ちが解るよ!」

 ちょっと!何してんの!?

 本当に本能で行動する人ね!

 でも私が食べるまで、きっとずっと待つのね。

 はぁ、と諦めの息を吐き出してから、バージルの差し出した林檎を口にした。


「んん〜〜〜!」

 まだ口の中に果物が入っているのに、声を出してしまった。

 それくらい、美味しい!

 目を見開き、バージルを見つめると、うんうんと頷かれた。




 コース料理がデザートまで終わり、コーヒーが出された。

 5家の料理人が協力してのコース料理は、今まで食べた料理の中で1番美味しかった。

 ドレスがはち切れなくて良かったわ。


 普通はここで終了なのだけれど、私の我儘で、この後は自由な歓談時間を設けてもらった。

 グループ毎に少し離れたテーブルへと移動して、話が出来るようになっている。


 私は、幼い頃に家庭教師をしてくれていた先生を誘った。

 神様と女神様が付いて来てしまい、先生が倒れそうになっていた。

 も、申し訳無いけど、お礼を言いたいって言われちゃうと断り辛いじゃない?


 席に着いて、記憶より少しお年を召した先生へ、感謝の気持ちを素直に告げた。

 神様の話によれば、私が聖女である愛し子に選ばれたのは、先生のお陰である事も説明する。


「一般常識を教えたのは私ですが、それを活かせたのはカーリー様ご自身の気質ですわ。自信と誇りを持ってくださいませね」


 あぁ、変わらない優しい笑顔。

 優しいだけでなく、一本筋が通っている。

 本当に素晴らしい先生だ。



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