第39話:涙の卒業式




 色々あったけど、今日は私の卒業式。

 答辞を頼まれたけど、断った。

 だって今まで通り首席がやるべきでしょう?

 聖女だからって理由で、人の手柄を横取りするのは嫌だわ。

 私の成績は、学年3位よ。


 首席は前に姉の代の卒業式で、送辞を断った侯爵家の嫡男。

 3年間首席を守り抜いたのよね。

 とても素晴らしい答辞に、惜しみ無い拍手を贈る。


 送辞は2年生の首席だったけど、お座なりな拍手を送った。

 なぜなら彼は、時たま顔を顰めていたから。

 アモローサの悪臭を感じてるって、よね?



「あ~ん、卒業したくない~」

 マーガレット様がシクシクと泣き出した。

 こういう公の場では絶対に泣かないタイプだと思っていたので、心底驚いたわ。

「解ります。楽しかったですものね」

 アイリス様もつられて、目がウルウルですわ。


「私も楽しかったです」

「二度と無い貴重な体験でした」

「淋しいです~」

 クラスメート達も泣き出してしまった。

 マーガレット様が泣いたので、我慢しなくて良いと思ったのでしょう。


「動く水死体とか、偉そうな腐乱死体とか、貴重な体験でした~」

 え?そこ!?

 このちょっとズレてる彼女は、小説家を目指している子爵令嬢ジャスミン様。

 前に「死体夫婦の結婚式は墓場かしら?」と言ったダリア様と仲が良い。


 隣のクラスにその腐乱死体第二王子が居るんですけどね?

 そのお陰で、保護者席に居る国王夫妻がチラチラチラチラ見てきて鬱陶しいんですけどね!?

 第二王子が腐ったのは、中身が腐っているから。

 私にはどうしようも無いからね?



 卒業式は恙無つつがなく終了した。

 皆で1年後には同窓会を開きましょうね!と約束して別れた。

 マーガレット様とアイリス様、その両親と、今の私の義両親であるグルーバー辺境伯夫妻で馬車停めに向かって歩いていた。


 今日はマーガレット様の公爵家で、簡単なお祝いのパーティーがある。

 その為、直接公爵邸に皆で向かってしまおうとなったのだ。


 因みに明後日は、アイリス様の屋敷でのパーティーである。

 1ヶ月後には、グルーバー辺境伯邸で。

 伝統なので、しょうがない。

 お陰でドレスを3着も新調したわよ。




「おねぇさまぁ~!」

 うわぁ!!腐乱した水死体が走って来た!

 アモローサだけ、りガラス越しに見ているみたいに見える。

 もう直視に耐えられないレベルなんだろうなぁ。


「おねぇバブッ!」

 アモローサが見えない何かに弾かれて、転倒した。

「酷いわ、おねぇさま!突き飛ばすなんて!」

 周りで見ていた人達がキョトンとした顔でアモローサと私を交互に見る。

 それはそうよね。

 私達二人の間は、3メートルは開いているもの。


 倒れたアモローサの隣に、婚約者の腐乱死た……第二王子がやって来た。

 目が虚ろで焦点が合ってないのは、アモローサ対策なのかな。

 彼には磨りガラス無しで見えているのだろう。



 それにしても、本当に驚くほど変わらないのね。

 もしかして婚約者を自慢しに来たのかしら?



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