第40話:第二王子




 アモローサの側に来た第二王子は、アモローサを助け起こしもせず、周りをキョロキョロと見回す。

 誰かを探しているのは間違い無いわね。

 そして私の予想通りなら、私に聞いてくるはずよ。

「神は来ていないのか?」

 うん。当たりだわ。


 チラリと第二王子とアモローサを見て、無言で歩き出す。

 挨拶も出来ない無礼な人には、こちらも礼を欠いても良いわよね。

 第二王子がなんぼのもんじゃい。

 こちとら神様の愛し子、聖女様だ!


 虎の威を借りまくってますけど、何か?


「おねぇさま!無視するなんて酷い!」

 まだ言うか。

 コイツの親は、何を教えてんだ?

 いや、あの親自体が、まだ私を娘だと主張していやがるんだった。

 国が私は「伯爵家の娘では無い」と認めているのに、しつこいなぁ。


 まさかと思うけど、王家も私に伯爵家に戻って欲しいとか?

 そうすれば第二王子を通じて、私と縁続きになるもんね。



「おい!聞いているのか!俺を誰だと思ってる!」

「うるさいわね!腐乱死体!!」

 懲りない第二王子に、つい本当の事を言ってしまった。

「プッ」

 誰?笑っちゃ駄目よ。


 振り返ったら、馬車へ声掛けに行っていたはずのアンブローズ様だった。

 戻って来たのね。

「ふら、腐乱……ブフッ」

 グルーバー辺境伯お義父様まで。

 もう!この脳筋親子は!

 元はと言えば、私のせいなんだけどね。



「何を騒いでおる!」

 あぁ、ほら、厄介なのが来たわ。

 私以外の皆が会釈する。

 外だから、簡易な礼でも失礼にはならない。


 でも私は、神様達に『みだりに頭を下げぬように』と言われているので、自国の王家にも頭は下げないけどね。

 頭を下げると、相手が上だと認めた事になり、王家の命令にも従いますと公言した意味になるらしい。

 特に自国の王家には絶対に下げるな、とまで言われている。


「父上。この生意気な女に、俺との婚姻を命令してください!」

 お~馬~鹿~が~い~る~!!

 女神様の指定した婚姻を、王命ごときでくつがせると思ってるの!?

 あ、陛下と目が合いました。


 顔面蒼白です。

「そうすれば、俺のこの姿も元に戻るはずです!」

 陛下の様子に気付かずに、ベラベラ話す第二王子。

 目ン玉腐って、周りが見えなくなってるのかしら。


「何言ってるの!?私の婚約者でしょ?あんな醜い女の方が良いの?」

 アモローサが空気を読まずに割り込む。

 彼女の中では、自分は女神の様な美しさだからね。

 そんなアモローサを、第二王子は足蹴あしげにした。

「そもそもお前が俺を騙したのが悪いんだろうが!」

 第二王子がアモローサを怒鳴りつける。


 えぇ~?私に言わせると、王家なのにちゃんと調べもせず、鵜呑みにしたのが悪いんでしょ。

 マーガレット様にもそう言われてたのに、反省は一切無しですか、そうですか。



『救いようもないな』

 神様の声が響いた。

 今日は声だけの登場なのね。と思ったら、腐乱死体が乾燥した。

 木乃伊ミイラ!?

 最終形態?

 腐乱死体よりは、まだ見られる?


「うわああぁぁぁぁ!!」

 腐乱死体から木乃伊になった第二王子は、自分の手を見て絶叫した。

 その後、ガックリと膝を突く。

 陛下と、後ろから近寄って来た王妃陛下が、地面にヘナヘナと座り込んだ。



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