第37話:変わらない人達




「も、燃え、燃え、部屋、天使」

 カタコトでおかしな事を言う私を、神様は首を傾げて見つめる。

『天使が燃えていた?部屋の中が燃えた?どちらだ?』

「両方よ!」

『ふむ』

 顎に手を当てて、何やら考える神様。

 え?何か考えるような事あった?

 事実を教えてくれれば良いだけなんだけど。


『執事をしておったのは、熾天使セラフィムで、羽が燃えておるのはそういうものだとしか言えんな』

 そうなの?

『部屋の中身を燃やしたのは……まぁ、奴も怒っていたのだろうの。カーリーの物には、全て私の加護が宿る。この屋敷に残したくなかったのだろう』



 必要最低限の物しか与えられず、公に着て行けるドレスも一着も持っていなかった。

 おそらく育児放棄されていたのだろう。

 そして、そんな子供ならしいたげても良いだろうと、使用人からも嫌がらせされていた。


 いつの間にか居た筆頭執事が、そういう使用人をことごとく排除してくれていた。

 今思えば、だけどね。

 当時は「あれ?あの意地悪な人居なくなったな~」くらいの感覚だった。



 当時の辞めさせられた使用人達は、どうなったんだろう?

 まぁ、仕えてる家の子供を虐待するような大人は、それなりの罰を受ければ良いと思う。


 自分の子供を虐待するような親もね!




「おい!アイツが来ているだと!?どうして呼びに来んのだ!」

 廊下から怒鳴り声が聞こえてきた。

「執事長がご案内をしておりまして」

 あら、本当に他の執事がいたのね。

 知らなかったわ。

 見栄を張ってそう言ってるんだと思ってたわ。


 だって会った事無いもの。


「ねぇ!部屋に入れるのよね?宝石とかドレスとか、貰っても良いわよね?」

 イザベラの声も聞こえてきた。

 いやいやいや。

 馬鹿なの?あ、馬鹿だったわ。


 私が1回でも伯爵邸でドレスを着てた事あった?宝石の一つでも着けてた事あった?


 私の誕生日を、1回でも祝った事があった?


「ねぇ!アモローサの加護がどうなってるのか、神様に聞いてもらいましょう?聖女なのに、なんであんな見た目なの!?」

 あらら。甲高い耳障りな声まで聞こえてきたわ。



「帰る前に、挨拶だけしようかな」

 神様に向かって笑顔で言うと、頷いてくれた。

 扉から1番離れた窓の側に立つ。

 子供の頃から一度も変えて貰えなかった、元はクリームイエローのカーテン。

 今は色褪せてくすんだ白にしか見えない。


 バーンと大きな音と共に扉が開かれた。

「おい!父親に感謝の挨拶もしないなんて、なんて親不孝な娘なんだ!」

「何よ!この部屋!何も無いじゃない!」

「私の娘なら、私の頼みを聞いてくれるわよね?」

 なだれ込んで来た家族。



「皆様、お久しぶりです、さようなら。地味で醜くて出来の悪い恥ずかしい娘は、辺境伯の娘になりましたので。二度と家族面しないでくださいね」


 ニッコリ笑ってやる。


「辺境伯令嬢で、聖女の私。アンタ達が容易に声を掛けて良い人間じゃないのよ!立場をわきまえなさい!」


 私の台詞に合わせて、神様が威圧を発してくれた。

 家族と、その後ろにいた使用人達が全員平伏ひれふした。


 アモローサがまだ学園から帰っていなくて、残念だったわ。



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