第36話:仕えていた人




 神様のお陰で、伯爵邸まで瞬間移動!

 らっく楽だわ。

 ノックをすると、例の優秀執事が即出て来た。

 扉の前で待機してたの!?って思うくらいの速さだ。

「お待ちしておりました」

 うやうやしく頭を下げるさまが、あまりにも完璧で逆に違和感。

 何でだろう?


「お部屋に御案内いたします」

 そう言われて連れて来られたのは、かつての私の部屋だった。

 応接室とかに案内されて、元両親と挨拶するのくらいは覚悟してたのに!

 向こうも私には会いたくないのか?

 ラッキー!

 ここで悲しいとか淋しいとか感じない時点で、やはりここは私の居場所ではなかったのね。


 コンコココンコン。

「私だ。開けなさい」

 執事がノックと共に私の部屋へ声を掛けると、扉が内側から開かれた。

「お待ちしてました」

 顔を出したのは、私付きだった若いメイドだった。


 部屋の中は埃一つ無く、常に掃除されていたのがすぐに判った。

 私が居た頃と変わりなく、唯一の変化は学園の道具が一つも無い事だ。

 しかしそれは、神様が持って来てくれたから当たり前で……。

「凄い。全部そのままだわ」

 素直に感嘆の気持ちを口にした。



 絶対に姉妹に、部屋を荒らされていると思っていた。

 引き出しを開けて、目当ての文具を取り出す。可愛いガラスペンとカラフルなインクが3本。

 クローゼットからは、淡い緑のストールを出した。


 飾り棚に置いてある花瓶、動物の置き物、花を模したガラス細工。

 そして、マーガレット様とアイリス様との、友情の髪飾り。

 目当ての物を全て箱に詰めた。


『それで全てか?』

 神様に聞かれて、「はい」と笑顔で答える。

「それはようございました」

 執事が笑顔で頷く。

 この人の笑顔って初めてじゃないかしら?

「では、私はお役御免ですね!さすがに篭り切りは大変でした」

 メイドも笑顔でとんでもない事を言う。


 篭り切り?お手洗いとか、食事とかは?お風呂も入れないわよね?

 でも、メイドはいつも通り、こざっぱりとしている。


「一足お先に失礼しま~す」

 そう言ったメイドは、光と共に姿を変えた。

「天使~!?」

『しがない権天使ですぅ』

 そう言って手を振ると、飛び立って行った。

 天井をすり抜けて……。



 呆然とメイドだった天使が飛んでった方を眺める。

 まぁ、天井しか無いんだけどね。

「それでは、私もお役御免と言う事で」

 え?まさか?


 そのまさかですよ!

 執事が光って、てかメイドの時より眩しい!

 スッゴイ光って、6枚も翼があるんですけど!?

 え?何か燃えてない?大丈夫?


 神様に跪いて深く頭を下げてから、飛び立って行った執事、いや、天使。

 燃える羽根がヒラヒラと舞い幻想的な風景。

 かつての私の物の少ない部屋だけど。

 その少ない物達は、炎の羽根が触れると灰も残さずに燃え尽きた。

 部屋や家具には延焼せず、私の為に用意された物だけを燃やし尽くした。


 私がこの邸に居た痕跡が、跡形も無く消え去った。

 きっと、髪の毛1本残ってないと思う。



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