第33話:辺境伯領地での生活




 その後、私は無事にグルーバー辺境伯家へ養子に入り、アンブローズ様の義妹になった。

 そしてバージルが婚約者となり、充実した日々を送って……充実?毎日、大型犬の躾をしている気分だわ。


「ですから、今のはお祝いに見せかけた嫌味なのですよ」

 後継者交代を聞いて面会をしに来る貴族は多い。

 基本、婚約者として一緒に面会するのだが……全てを言葉通りに受け取るバージルに、面会が終わってから注意をする日々を送っている。

「でもなぁ、命の危険感じないし」

 バージルが困ったように笑う。


 そう。この人ってば、野生の勘なのか、本当に危険な人物はどんなに人当たりが良くても見抜くのだ。

 私も騙された位の好々爺を、意味も無く嫌った。

 調べたら、国家転覆を画策するほどの大罪人だった。



『もう良いわよ~。私の祝福あげるから、多少の無礼は愛嬌になるわよ』

 女神様!甘やかしちゃ駄目です!

 これからは辺境伯の後継者なんですよ!?

『愛し子を妻にして、女神の祝福を受けて、むしろ敵対する奴が居たら凄いぞ』

 神様まで!


『面倒な事務仕事はアイツがやるんでしょ?』

 愛を司る女神様に生涯独身宣告されてしまったエイベル様は、廃嫡された。

 他家に婿に行く事も無いので、一生キャスパー辺境伯家で事務仕事をするのだろう。


 自分から除籍を願って平民になる事も可能だが、そんな気概も根性も無いだろう。

 きっと死ぬまで、貴族という地位にしがみつくタイプだわ。




「おはようございます、カーリー様」

 アイリス様と朝の挨拶を交わす。

 まだ学生なので、私は毎朝神様にアイリス様の居る侯爵邸まで送ってもらっている。

 そこから馬車に乗せてもらい、学園まで行くのだ。


 卒業するまで侯爵邸に住んでも良いと提案されたのだが、辺境伯領での生活が思いの外楽しくなっていた。

 最初は緊張して戸惑っていたグルーバー辺境伯達も、基本がおおらかなのか、すぐに本当の家族のように接してくれるようになった。


 特に義兄のアンブローズ様は、私を構いすぎて皆に注意されている。

 本当の姉妹がアレなので、それも心地良いと感じるわ。

 でもアイリス様に対する態度とは種類が違うので、邪な気持ちは一切無いと判る。



 週末はアイリス様やマーガレット様が泊まりに来る。

「神様を利用しているようで気が引けます」

 マーガレット様が言う。

 でも普通に馬車で移動したら、辺境伯領地まで王都から1ヶ月、領地内も何週間か掛けて領主邸に着くのよね?


 私、学園に通えなくなっちゃう。

 言い方は悪いけど、神様にしたら私の通学のついでに、お二人を拾っているだけなのよね。

 感謝さえすれば、良いと思う。



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