第32話:判断力




 勘違い男は放置して、バージルの両親へと視点を移す。

 もう可哀想な位、顔面蒼白で汗ダラダラだわ。

 アモローサがケーキを食べ過ぎて1時間位お手洗いにこもりきりになって、やっと出て来た時にこんな顔だったわね。


「ワタクシ、婚約を申し込んだ記憶が無いのですが、そちらではもう長男との婚約が決定事項になっておりますの?」

 いつもより丁寧な口調で隣国の辺境伯夫妻に問い掛ける。

「あ、いや、それは」

 答えられないわよねぇ。

 そんな事実は無いし。


「それに本日は、バージル様とのお見合いだと記憶しておりますが、ワタクシの勘違いでしたかしら?」

 ねぇ?とグルーバー辺境伯に同意を求める。

「き、キャスパー辺境伯には、ちゃんとその旨を伝えていたのだが」

 来ちゃったものを帰れとは言えなかったのね。

 相手は嫡男だし、今後の付き合いもあるだろうからね。


 それにしても、やっとファミリーネームを聞いたわ。

 前回も今回も、ちゃんとした紹介も、自己紹介もしてないのよ?知ってた?

 誰の所為とは言わないけど。



「さっきから何だ、お前は。なぜそんなに偉そうなんだ!」

 とうとうエイベル様がキレました。

 その台詞、見事にご自分の事を言ってますけど、自覚してます?


『偉そう、ではなく、カーリーは実際に偉い。そうだな?』

 神様がグルーバー辺境伯に問い掛ける。

『貴方、生涯独身に決定ね!』

 女神様がエイベル様を指差し、とんでもない事を宣言しちゃってるし。


「な、何だと!?大体、誰だコイツらは!赤の他人を連れて来て、なんて常識が無い女なんだ!俺の代では辺境伯との付き合いも見直さなくてはな!」

 えぇと、私を指差して馬鹿にしてますけど、あまり調子に乗ると痛い目みますよ~。

 そもそも、グルーバー辺境伯家で私に会った事無いでしょう?



「あのさ、彼女とはグルーバー邸で会った事も無いし、新年の挨拶に居た事も無いよ。アンブローズにも妹の話なんて聞いた事無いし、最近養子に入ったんじゃないの?」

 バージルが良い事を言いました!


 エイベル様が「え?」とか言って固まってます。

 やっと気が付きました~?


 キャスパー辺境伯がもう、下向いちゃって、カタカタ震えてるわ。

 きっと聖女だとか神様夫妻だとかは伏せるように言ってあるけど「とても偉い家族です」くらいの曖昧な情報は聞いてるんだろうな。

 遠い国の王族とか思われてるかな?




 すぅーはぁーとすっごい深呼吸の音が聞こえた。

 グルーバー辺境伯だ。

 もう一度大きく息を吸って、一瞬止める。

「驚かずに聞いてください」

 ゆっくりと、噛みしめるように、言葉を紡ぎ出しているって感じ。


「こちらにいらっしゃるのは、神様と女神様です。そしてカーリー様はくだんの聖女様です」

 聖女情報は、世界中に発布されたからね。

 各国で聖女判定が行われてるはず。


 あ、キャスパー辺境伯夫人が意識を飛ばしました。

 皆が顔面蒼白な中で、バージルだけはキラキラした目で私を、そして両脇の神様と女神様を見ていた。

 そして1番最初に我に返り、ひざまずいてこうべを垂れたのも彼だった。


 うん。やっぱり良いよね、彼。



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