第34話:悪化




 アイリス様と一緒に学園前で馬車を降りる。

「では、いつもの時間に迎えに参ります」

 馭者の方はそう言って、帰って行った。

 ほぼ同時に、マーガレット様が学園に到着したのが見えた。


「おはようございます。マーガレット様」

「おはようございます。カーリー様、アイリス様」

 挨拶を交わし、一緒に歩き始めた。



「きゃあぁぁぁ!」

「ゲッ!くっせぇ!」

「いやあぁぁ!」

「逃げろ!」

 後ろが騒がしくなったので振り返ると、元実家の伯爵家の馬車が到着しており、アモローサが降りて来る所だった。


 な、なんか悪化してない?

 前はこんな悪臭してなかったよね?


 扇で隠すとかじゃ追いつかなくて、ハンカチで鼻と口を覆う。

「おねえさまぁ!」

 私に気付いたアモローサが駆け寄って来た。

 いや、マジで来んなよ、馬鹿野郎。



「なぜ帰って来ないの?聖女になったからっていい気になってるんでしょ。残念でした~。私もイザベラお姉様も聖女なんですぅ~」

 うわっ!ムカつくわぁー!!

 コイツ、人を苛立たせるのは天才的に上手いわよね。


「私、第二王子の婚約者になりましたの。イザベラお姉様は公爵家の長男と!」

 らしいわね。女神様に聞いたわ。

「で、おねえさまは?辺境の次男でしたっけ?」

 色々言いたいけど、鼻と口からハンカチが外せない!


 辺境伯は、単なる辺境貴族とは違うのよ!

 特にうちの国は完全な陸続きだから、その地位は公爵家と同等なの!国の国境を守るんだからね!

 寝返られたら国が滅ぶ危険もあるのよ?

 そんな事も知らないの!?

 それは私が嫁ぐ隣国のキャスパー辺境伯も同じよ。

 そして私はもうグルーバー辺境伯へ養子に入ったから、貴女の姉じゃないわよ!


 と、言いたいけど心の中で叫んでおく。

 何でも良いから、早く離れて!



「あ!」

 抑えたハンカチの下でくぐもった声を出した後、マーガレット様が駆け出した。

 淑女らしからぬ珍しい行動に何事かと見ていたら、一人の男子生徒を捕まえた。

 引きずるように連れて来られた男子生徒は、髪は手入れされてキラキラなのに、顔色は酷く悪く、急に痩せたのか頬がコケて皮がたるんでいた。


「自分の婚約者くらい、管理なさいませ」

 くぐもった声だけど、何とか聞き取れた。

 ハンカチの下では、かなりの声で怒鳴っているのだろう。

「マーガレット……貴様がさっさと俺と婚約していれば」

 マーガレット様を恨みがましく睨みつけてるこの男は、アモローサの婚約者に決まった第二王子か!


「×××××、×××××」

 えぇと、マーガレット様。何を言ってるのか解りません。

 皆の視線に気付いたのだろう。

 ハンカチを抑えながら、逆の手で口元だけ少しハンカチを持ち上げる。

 外す気は無いのね。


「真実を調べもせず、見た目に騙され噂に踊らさせる者などお断りです」

 マーガレット様がキッパリと言い切る。

 拍手は心の中でしておいた。

 チッと舌打ちして、第二王子がこちらを向く。

「そもそも!俺の婚約者はお前だったんだ!」

 はぁ!?聞いてませんけど?


「俺の婚約者には、聖女がなるはずだったんだ!」

 知らんがな。

 イザベラかアモローサが聖女だと思って、判定前に婚約打診したんでしょ?

 自業自得じゃない。



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