第28話:神は何でも知っている




「えぇと?聖女様をうちの養子にすれば、良いのですね?」

 可哀想なくらい汗を掻いているダンディなオジ様は、アイリス様の婚約者のお父様である辺境伯爵。

 アイリス様が学園の男共に見向きもしなかった理由が、ここに来て判ったわ。


 皆、贅肉どころか無駄な筋肉も無いのよ。

 戦闘民族って言うの?

 しなやかな、戦う為の筋肉。

 これを見慣れちゃってたら、学園の男や王都の騎士なんて……ねぇ?



「アイリスが来てるんだって!?」

 ノックもせずに扉を開けて部屋に入って来たのは、ダンディなオジ様に良く似た男性だ。

 年は私達より少し上っぽいかな?

 でもヤンチャ坊主って言葉がピッタリの方だ。


 元気よく扉を開け放ったのに、そのまま固まってしまったわ。

 部屋の中に居る人数の多さと、マーガレット様を含む公爵家が居る事に驚いているのかしら?

 いや、神様かな。

 人外の美しさと荘厳な雰囲気で、何かヤバイって感じたのかも。


「武官だからといって、礼儀作法を守らなくて良い理由にはなりませんよ」

 アイリス様の厳しい声が部屋に響く。

「す、すまない」

 うぅん。まるで姉と弟だわ。




「え?聖女様を隣国の辺境伯子息に、ですか?」

 戸惑った声を出したのは、マーガレット様のお父様である公爵だ。

 まぁ、せっかく生まれた聖女が自国から居なくなるって言われたら、そうなるわよね。

 居るだけでその土地が栄えるはすだもの。


『安心せい。お前達の領地には、ちゃんと祝福をしてやろう』

 神様が得意気に言うけど、ちょっとズレてるわ。

「他の領地はどうなるのでしょうか?」

『どうもせんな』

 はい?


 思わず私もマーガレット様やアイリス様と視線を合わせてしまう。

 だって聖女っているだけで、国を富ませるんでしょ?



『逆に聞こう。お主等は自分の子供をないがしろにした者達を、助けようと思うのか?』

 神様の言葉に、皆、私の学園での評判を思い出したらしい。

 ここに居る方達は、自分の目で見て耳で聴いた事しか信じない方達だから、私と仲良くしてくれていた。


 しかし、噂に踊らされていた人も多い。

 後はイザベラとアモローサに騙されていた人達ね。


『影響があるとしたら、カーリーが居た土地と王都くらいだな。カーリーが苦労せんように、加護を与えていたからの』

 そういえば、父親が自慢気に言ってたわ。

 自分の代になって、賊は減ったし収穫は増え、災害もないと。

 自分は領地経営の才能があるんだと。


『平常に戻るだけだ。いや、今まで幸運だった分、ちょっと不運が多くなるかもしれんがな』

 それなら、まぁ良いか!

 今までとの差し引きがゼロになるだけだもんね。



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