第23話:神の御加護 イザベラの場合




「ねぇ、カーリーが聖女なら、うちには国からお金が入るわよね?」

 突然、イザベラがそんな事を言い出した。

 え?この空気の読めなさは何?

 元々そういうきらいはあったけど、ここまでじゃ無かったわよね?


『ちょっと頭のネジが緩くなっておるから、欲望に正直なのだろうな』

 神様が面白い事を言い出した。

 ちょっと?ちょっとかな?

『元々が自分の感情を優先する人間だったのだから、ちょっとであろう?』

 そう……かな?


 それに、イザベラが隣りに居る水死体……じゃなくて、アモローサを見ても何も反応しないのも気持ち悪い。

『あぁ。あの姉妹は、お互いを今まで通りに感じておるぞ』

 はい?

『イザベラからはアモローサは美人の妹に、アモローサからイザベラは自慢の姉に、な』

 うわぁお。


 お互いに指摘し合う事が出来ないのね。

 確かに、あの二人は独特の関係だったから、他の人の言葉は信じなくても、お互いの言葉なら信じそう。

 逆に言えば、そこを封じれば、誰からの指摘も全て「嘘」になる。


 神様、さすが神様だわ。



「こんな地味で恥ずかしい妹でも、たまには役に立つのね!」

 まだ私を貶めるイザベラ。

 本当に周りが見えなくなっているのね。

 神官も陛下も、進行役の人も、真っ青になってるわよ?


 私と神様は、そんなイザベラをニコニコしながら眺めていた。

 今後の彼女の人生は、どうなるのかしら?


 建前と本音とかレベルでは無い。

 本能だけで生きる獣のようなものだ。

 改心の余地はあるのかしら?



 しかも、神様がイザベラに贈ったものは、それだけではなかった。



 イザベラが、馬鹿になった。

 いや、今まで通りに頭は良い。

 計算をやらせれば誰よりも早いし、難しい他国の文字も読める。


 しかし、それを活かせない。


 指示が無ければ、簡単な計算も出来なくなっていた。

「5+8は?」と聞かれれば、13と答える。

「自分のメイド五人とアモローサのメイド六人。では全部で何人?」と問われると、答えられないのだ。


 計算式は解けるけど、文章題は解けない。

 子供のおつかい以下の理解力になっていた。


 他国語も、リンゴと読めるが食べ物の林檎とそのリンゴが結びつかない。

 読めるけど、意味が理解出来ないのだ。




 何も役に立たなくなったのに、性格は自分本位なあのままだ。

 だって頭自体は良いままだから。

 何が理解出来ていないのかが理解出来ていないので、イザベラの中では自分は優秀なままなのだ。

 役立たずなのに、屁理屈だけは達者で、自分が1番なイザベラ。


 学生時代のイザベラは、試験だけは成績が良く、人の機微きびなどにはうとく、頭の回転が悪く、そして自分が1番だったわね。

 あら?今のイザベラと同じと言えば、同じよね。


 確かに神様の言う通り『自分の感情を優先する人』だったわ。

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