第22話:神の御加護 アモローサの場合

※間違っても、物を食べながら読まないでください!






 天使だと言われたアモローサは、どこにもいなかった。

 肌は青黒く変色し、ガサガサなのに変な汁が染み出してる。

 体はパンパンに浮腫んで……てか、これ、水死体じゃない?


 嫌われ者のお婆さんが行方不明になって、しばらく誰も気付かなくて、川岸に打ち上げられていた死体を発見したのが、学園から帰宅中の私だった。

 家に真っ直ぐ帰りたくなくて、ちょっと遠回りしたのよね。


 遠目から見ただけだったけど、パンパンに膨らんで青黒く見えた。




「きゃあぁぁぁ!」

「いやぁ!」

「気持ち悪い!」

 会場内からは悲鳴があがり、そこかしこで人の倒れる音がする。

 コッソリ盗み見ていた令嬢達が倒れたみたいね。


「え?何?何なの!?」

 アモローサはポケットから手鏡を取り出す。

 ドレスに手鏡用のポケットを必ず付けるのよね、アモローサは。

 どれだけ自分大好きなのよって話。


 それなのに、水死体。

 さぞかし驚く、ってか、倒れるよね?



「え?何とも無いじゃない!何なのよ!」

 はぁ!?

 アモローサは手鏡を持ち、右から左から、そして正面からも自分を確認している。

 それなのに、全然驚いていないなんて、おかしいわよね?


 神様に視線を向ける。

 どういう事なのか、説明を求めたい。


『あの者に相応しい見た目にしたのだが、本人だけは今まで通りに見えておるのだ』

 神様が楽しそうに言う。

『心が美しくなれば、周りからもそれに相応しい見た目に見えるようになるだろう』

 でも本人には今まで通りに見えてるなら、反省しなくない?


 ニヤリ。神様が口端を持ち上げる。

 あれ?もしや、考えてる事が筒抜け?

『自分で気付かなければ、意味が無かろう?』

 確かに、自分では可愛いつもりで今まで通りに過ごすだろう。

 しかし周りから見れば、動く水死体。


 可愛い私が頼んでいるんだもん、やってくれるよね?って態度のままのアモローサ。

 しかし周りは、水死体が何言ってんだってなるよね?

 しかも本人気付く間も無く、周りから人が居なくなるだろう。


 神様、意外とエゲツナイな。

 多分と言うか絶対、アモローサは改心しないな。




 アモローサのあの見た目は、高性能な幻覚みたいな物で、アモローサから離れると無くなるらしい。

 だから、あの汁もアモローサから離れると消えるので、家の中が汚染される事は無いらしい。


 ドレスも今までのが入るけど、着用するとあの汁が滲んできて、汚くなるとか。

 脱ぐと普通のドレス。

 メイドの仕事に負担は……ある。

 私に悪意を向けていた使用人達には、あの見た目通りのアモローサの世話をする事になるらしい。

 お風呂とか大変そうね。

 同情はしないけど。



 何で水死体なのかと思ったら、私の記憶の中で、1番醜く汚いものだったらしい。

 動物の腐乱死体と迷ったらしいけど、どっちもどっちだわよ!



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