第16話:前日の昼、伯爵邸




 聖女判定日前日。


 もう屋敷中が浮き足立って鬱陶しかった。

 使用人達も、イザベラやアモローサにへつらってる。


 イザベラは「私が選ばれたら、王太子様の婚約者ね!」とか言ってる。

 馬鹿か。

 王太子様には、幼い頃から仲の良い婚約者がいるだろうが。

 今から王太子妃教育受けたら、結婚する時は何歳よ!?


 アモローサは、自分のドレスをまた試着し、家にあったリボンをメイドに縫い付けさせていた。

 デザイナーが泣くわね。

「私が選ばれたら、いっぱいドレスや宝石を買ってもらうんだ」

 誰に?神様に?



 昼食を食べに食堂へ行くと、既に食事が始まっていた。

 私を待たない事は多々あるので、それは別に良い。

 しかし、落ち着いて昼食を味わいたいのに、とにかくうるさい。


「絶対にイザベラかアモローサのどちらかが選ばれるはずだ」

 親馬鹿発言丸出しの父親って、コイツの事を言うのね。

「明日はどちらかが選ばれたら、そのまま王宮に泊まるのかしら?」

 なぜか母親の中では、選ばれる事が確定らしい。


 イザベラとアモローサは、聖女に選ばれた後の話で盛り上がってる。

「聖女のお披露目パーティーって、王家主催よね?」

凱旋がいせんパレードとかするのかな?」

 誰に勝つのよ。他の成人前後の女性達?

 何でアモローサの間違いを指摘しないのよ、イザベラ。


 無言で早々に食べ終わると、直ぐに席を立つ。

 部屋を出ようとした私に、イザベラとアモローサが声を掛けて来た。


「ドレスが届かなかったみたいね。恥ずかしいから、見すぼらしい格好で近付いて来ないでよ」

 はいはい。頼まれても行かないわ。

 私の方が綺麗だから、公の場で並びたがらないのよね、イザベラは。


「姉だと思われたくないから、絶対に声を掛けて来ないでよ!今回だけじゃないわよ!これからは外で声を掛けないでね!」

 アモローサが叫ぶ。

 勿論よ。

 どれだけ可愛くても、中身が悪魔な人なんて、こちらから願い下げだわ。

 それに服の趣味も悪いし、近付きたくないのはお互い様よ。



「本当に出来の悪い妹で恥ずかしいわ」

 イザベラのいつもの言葉。


「ブスで意地悪で嫉妬深くて最低ね」

 アモローサ、その言葉はブーメランよ。


「地味で頭も悪い。ホントにカーリーは出来損ないよね」

 実の母とは思えない言葉。


「イザベラかアモローサが聖女に選ばれたら、カーリーはどこかに養子に出そう。嫁に貰ってくれる家は無いだろうからな」

 それは、二人が聖女に選ばれなくてもお願いしますね!

 お父様!



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