第15話:アモローサのドレス




 アイリス様の侯爵家から、父宛に手紙が届いた。

 例のドレスの件である。

 公の場で着るドレスを「次女の分は作らないつもりだった」などと言えるはずがなく、金額の指定等とみみっちい事も言えず「宜しくお願いします」と返事をしたようだ。


 うちの家格では入れないような店で、私のドレスは作られる。

 アモローサは「何でよ!それなら私はもっと良い店で作るわ!」と息巻いていたが、家格と言う越えられない壁があるのよ。




 店から届いたドレスを試着し、私が居るのを判っていながら気付かないふりをしているアモローサ。

 まだ『聖女判定日』まで1ヶ月もあるのに、もう届いたのね。

 多分、イザベラのドレスも届いているでしょう。


 私のドレスは、マーガレットの物と一緒に公爵家に届けられる。

 イザベラが勝手に着て行く可能性や、アモローサが汚したり破いたりする可能性があったから。

 それにどちらにしろまだ届かないし。



「ドレスはね、どうでも良いものから仕上げるのよ」

 そう教えてくれたのは、ドレスの採寸を担当してくれた人だ。

 私が伯爵家だと知り、こっそり裏事情を話してくれた。

 同じ伯爵家次女だからかもしれない。


「今回みたいに手の込んだ刺繍は誤魔化しようが無いでしょう?だから、手直し期間を設けて、ギリギリまで時間を掛けて丁寧に作るの。使用日の1週間前位かしら」


 へぇ~、いつもアモローサもイザベラも、早くドレスが届いていたわよね、とその時心の中で笑ってたのよ。

 やっぱり今回も早いわね。

 因みに私は、聖女判定日の10日前に店に呼ばれている。

 最後のお直しの為だとか。

 小さなお直しはメイドがやる物だと思っていたけど、それはお店にお得意様だと思われていない証拠なんですって!



「イザベラお姉様のドレスも届いたのに、アイツのはまだ届かないの?騙されて、ドレスなんて作ってないんじゃないの?」

 アモローサのわざとらしい声が聞こえる。


 前日からマーガレット様の公爵家に行く事も伝えてないからね。

 勝手に誤解して、優越感に浸ってれば良いわ。

 それにしても、ピンクでヒラヒラフリフリって、成人間近まぢかの女性とは思えないデザインね。

 似合わなくも無いけど、それは友達の誕生日パーティーとか親しい友人とのお茶会とかで着るドレスよね?


 まぁ、デビュタント前だし、服屋がGOサイン出したなら、ドレスコードには引っ掛からないんでしょう。



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