第二章

「おかえりなさい、晩御飯の時間が近いですよ」

 ペコリとお辞儀をし、自分の部屋へ駆け込む。

 まただ、また心にもないことを……僕のせいで人が死んだ。一人の人間が死んだんだ。顔が見えない程潰されて、彼にもきっと大切な人がいただろうに。僕にはいないのに。


「皆さん、食事の前に祈りを捧げましょう」

 僕は話せないから、手を合わせ、祈りをささげる。そして、食事を口に運ぶ。誰にも話しかけられず。一人で黙々と。

ああ、そういえば。名前聞くの忘れた……でも喋れないからどうせ聞けないか。

もうこんな時間か。寝よう。明日も早起きしなきゃ。


コンコンと扉をたたく音がする。

「アラン、お客さんです」

シスターの声がする。客? 誰だろう?

「邪魔すんで~」

昨日の彼が部屋に入ってくる。

「へー君は一人部屋なんやな。あ、これ」

そう言って僕に紙とペンを渡してきた

「それなら声出さへんでも会話できるやろ?」

こくりと頷き、紙にペンを走らせる

『何か御用ですか?』

「せやせや、君やりたいこととかある?」

『いまですか?』

「いや、将来?というかこれからどんなことして生きていきたいとか」

将来なんて、考えたことなかった。僕は……何をしたいんだろう

『わかりません』

「そっかぁ~わからへんよな~」

『どうしてそんなこと聞くんですか?』

「君、あれやろ? 声になんか力あるんやろ?」

『そうです』

そうだよね、昨日のあの感じでばれてないわけないか

「俺もな、実は……なんもないんやけど、でもうちのボスもな君にお礼がしたいって言ってるんよ。やから、今から行かへん? うちの事務所」

『ボス? 社長さんみたいなこと?』

「あ~言ってへんかったっけ? 俺、マフィア的な? マフィアに対抗するマフィア的な? アンチマフィアなマフィアみたいな? ま、どうでもいいんだけどさ」

まふぃあ? マフィアって、あの?

『悪い人?』

「あ~まあええか、俺らは警察なんやけど、マフィアやねん」

??????????????????????????????????????どういう?

『どういうことなんですか?』

「わからへんよなぁ~まぁ一回ボスにあおか」

そう言われて、あっという間に事務所に連れていかれた


「ほぉ~この、へぇ~可愛らしい」

奥の社長椅子に座っていた女の人が顔を近づけてくる

「それちょっと、変態的な感じじゃないっすか?ボス」

「え? いいでしょ、私の感想なんだし」

「はぁ、だからいつまでたっても結婚できないんですよ。せっかく綺麗な人なのに」

「あら、君でもいいのよ?ジェームス君」

「俺はジェームスちゃいます~」

「細かいとこまで気にする男はモテないわよ?ね、ぼくちゃんもそう思うわよね?」

苦笑いしかできない。僕に何を言えと?喋れないけど

「喋らないんで、この子」

「あ、そっかぁ。ごめんね」

「そんで、この子に説明してあげてください」

「ああ、そうね」

と言って席から女の人が立ち上がる

「私たちは、こういうものです」

といい、手渡されたのは、「クレドリア市警 ギャング対策課課長 ライフル・バット・レイ」と書かれた名刺だった。

「私たちは、このクレドリアに住まうギャングたちの撲滅……いや、消滅を目的とした、まぁ治安維持部隊的なところもある」

「そして、君が昨日迷い込んだあの商店街は、僕らのフェイクテリトリーで。たくさんの仲間がいたんだ。そしてそれに君も知ってる『ファクトリ』が介入してきた。まぁそのおかげでファクトリの目的が分かった……それが君をここに呼んだ理由だ」

肩にポンと手を置かれる

「ちょっとぉ~デリル君~それ私が言う奴~」

「え? いいでしょそんなの別に」

「まぁ? 別に? 怒ってなんてないけどね」

「そんなことより、ここまで分かった?」

ペンを手に取る

『ギャングをつぶすために、ギャングをやってるってこと?』

「おお~物分かりもいいのね~かわいいだけじゃないのかぁ~君はすごいねぇ~」

「さっきから喋り方へんですけど……まぁ分かってるならよかった」

『それで、目的と僕が何の関係があるんですか?』

「そうそう、それやな」

ビッと指をさされる。そして、ライフル・バット・レイさんがホワイトボードを持ってくる

「君の素性を洗ってみたんだ、お姉さんたち元々そういうお仕事だったから」

「そこでわかったのが……君が純粋な人間じゃないってこと。ああ、精神的な話やなくって。肉体的な話やからねこれ」

『肉体的に人間じゃないって?』

「私から端的に、君はハーフだ。人間とセイレーンのね」

人間じゃない? 僕が? いや僕は人間だ、人間なんだ……僕は

「僕は人間だ!」

「耳をふさげ! デリル!」

「あ~やっぱり……俺には効かないみたいっす」

声が出た……でも……どうして急に? 意識してないのに、いや……いつもそうだった。

そうか、人間じゃないから。ぼくは、僕の声が他人ヒトを殺すんだ。

 力が抜ける、僕は人間じゃなかったんだ

「君はセイレーンと言われる、半鳥半人の人を操り、破滅へ導く怪物」

「と人間のハーフやな」

目の前が暗くなる、怖い、僕が怖い。

「そして、今。君はこのクレドリア近辺の全てのギャングたちから狙われている」

「どうして? 僕は怪物なんでしょう?」

「やっと自分の言葉で話してくれたな」

「理由は単純、君を手に入れれば簡単に市民を扇動し、金を稼げる」

「それに、君を狙うのはギャングだけじゃない。でもまだ噂レベルのはずなのにギャングたちは確信をもって君を狙ってる。やから僕らは君を守らなあかん。警察として」

「なら僕が死ねb!」

「言わせないよ、それに君が死んだら、もっとひどいことになる」

「なんで……僕は怪物なんだろ?」

「ちやうで、怪物やない。すごい人間ってだけや」

「でも、僕は沢山の人を殺した」

「それは君がセイレーンの力を色濃く受け継いでしまったから。誰のせいでもなく、強いて言えば、神なんてものがいるのなら……神のせいね」

でも僕が殺したんだ。殺したんだ。この声で、この喉で。

「セイレーンは、人魚のような姿で描かれることもある、知ってるか? 人魚の歌声は傷を癒すと書かれた文献も存在する……つまり、君のその声にはまだ、死を与える怪物にも、生を与える天使にもなれる。まだ未発達なんだ。そして俺は君に天使になってほしいと願ってる」

「そう、セイレーンは成人するまでの経験や気持ちで、効果が変わってしまうらしいの。だから、これからは私たちのところに来なさい。あなたを守ってあげる。私たちの全身全霊を捧げてね!」

「せや、一杯楽しいことしよな!」

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