魂の言葉

里芋の悲劇

第一章

「死ね」


僕は母にそう言った。だから死んだ。


「僕の前から消えろ」


僕がそう言ったから、父は消えた。言葉通り。


「死ぬな」


僕は犬にそう呟いた。だから苦しいまま死なない体になった。


もう僕は喋らない。何も。

コトバは、誰かを傷つけるから。




 強面のおじさんが僕に怒鳴る

「君がやったんだろ!何とか言ったらどうだ!」

一言も発していない僕にイライラしているらしい。

「はぁ~やってないならやってないでさ、なんか言ってくれないかな?!」

そこに一人の青年がやってくる。

「店長、その子やってないです。こいつが盗んだ商品持ってましたし、俺を見た途端逃げたんで、こいつ確定です」

「あっ、や~すまん。すまんすまん嬢ちゃん」

と、強面のおじさんが、手を合わせ謝罪する。

「たぶんその子、男の子ですよ」

「マジか」とつぶやいた店長さんが目を見開いて驚く表情で固まっている。

「じゃ、あと店長頼みますね」

そう言って僕はお兄さんに手を引かれてお店の外に出る

「すまんなぁ~君何にもしてないのに」

首を横に振って頭を下げる

「あー、君喋れないんか?」

首を縦に振って同意を示す

「そっかそっか、オトンとオカンは?」

首を横に振り、いないことを伝える

「あ~そっかぁ~」

独特な訛りがある美形の青年は、かがんで僕に目線を合わせる。

「う~む。とりあえず、お茶でも飲んでくか。店は店長居るし、どうにかなるやろ」

ニッと笑った彼が、向かいにあるカフェを指差す。

 反応を示そうと首を縦に振ろうとしたところに、彼は僕の手を引っ張り、カフェの中に入る。

席に案内され、ウェイトレスに

「ほな、コーヒーと……紅茶でええか?」

首を縦に振ると、嬉しそうに

「じゃぁそれで」

とウェイトレスに一瞥すると、こちらに顔を向け、話始める。

「親御さんいいひんってことは、一人で暮らしとるんか? それとも兄弟がおるんか?」

指を一本あげると、「ああ、せかせか」と頷く

「どこに住んどる……って喋れへんから、説明難しいか」

手を握り、祈るようなポーズをとると

「ああ、修道院におるんか」

頷き、紅茶を飲む。

「そんで、本、好きなんか?」

何度もうなずくと、お兄さんは嬉しそうに

「その本、続きもんやけど、その前は読んだんか?」

頷き、主人公の印象に残ったポーズをすると

「おお、ええやんええやん、あの主人公がな~剣を引き抜いて自国の門開けるシーンな~かっこええよな~」

こくこくと頷き、紅茶を口に運ぼうとすると。

 ガッシャーンと、ガラスが勢いよく割れる音がしたとたん、ドカーンと爆発音が響く。

「なんや、君は後ろに隠れとき」

お兄さんの後ろに隠れて、ゆっくりと音がした方をのぞき込む。そこには、福屋のショーケースがあったところに突っ込んで大破した車と、後ろからライフルを持ったスーツの男がゆっくりとこちらに近づいてくる。

「君、動かん方がええで」

そういわれるが、もとより足が動く気がしない。

 男たちが銃を構えた瞬間。お兄さんが僕に覆いかぶさり、その数俊後聞いたこともない銃声が轟く。その数秒は、生きた心地がしなかった。

「怪我、ないか?」

小さな声で、聞かれたので、小さくうなずくと

「そっか、よかったわ」

といい、立ち上がる、そしてお兄さんが腰のホルスターから拳銃を取り出し、男の一人の頭を打ちぬく。

「あんたら、誰のシマでこんなことしてるんか、わかっとるか?」

ドスの効いた声で、銃を構えたまま言うと

「あんたこそ、一人で何ができる」

とスーツの男が答える。

「一人やない、なぁ、みんな」

と言ったとたん、伏せていた男たちが、銃を片手に立ち上がる。

「な、てめぇ、何者だ」

「僕かい? さあね、今から死ぬ君らには……いらないものだろ?」

そう言って、ふぅとお兄さんが息を吐くと。周りの男たちは拳銃の引き金を一斉に引き、スーツの男たちはぐしゃぐしゃにされる。

「すまん、みんな。 ありがとう」

男たちは「いいよ、みんなのためだから」と、口々に言う。

「君!大丈夫だった!?」

こくりと頷いたが、口が開いたままだった。

「すまん、びっくりしたよな……う~んと、とりあえずこっち」

と、手を引かれ、離れようとしたとき、まだ絶命してなかったスーツの男が拳銃でこちらを狙っていた

「まだ生きてる! 殺して!」

僕が声を出そうとする前に声が出た。まただ

 すると、さっきまで片づけをしていた男たちが拳銃を取り出し、完全に頭が変形するまで次々と銃弾を撃ち込む。だけど、目の前の彼は……ただ唖然とその場に留まるだけだった。

「君、すごいなぁ」

僕は、あの時のことを思い出さないようにうずくまっていた。

「ああ、大丈夫か?」

うずくまった僕の背中をさすってくれた。

「君、喋れたんやな」

その笑顔から、目が離せなくなりそうだった。



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