第9話

 駅前のショッピングモール。

夏休み前の学生たちが浮かれたような足取りで集まる。

そんな人ごみの中、さらに人がごった返す水着売り場に足を運ぶ。

「そんな要とレナを付け回す変態が一人っと」

「いや俺は、ただ要の水着を……いや見守りに来たんだ」

はぁ、と柊がため息をついた後、ポンと肩をたたかれる。

「なんだよその顔。別にいいだろ!」

「いや、なんっつーか。」

「んだよ!」

「いや、何でもない」

もう一度はぁ、とため息をつく。

「あれ? 何してんの?」

後ろを振り向き、膝から崩れ落ちる。

「あーあ。しーらね」

と口笛を吹きながら去っていこうとしている柊の首根っこをつかんで

「二人で水着でも買いに行こうと思ってたんだよ……な?」

肩を組むふりをしてチョークを掛けると首をブンブンと縦に振る

「ああ、そうなんだ。じゃぁ一緒に行く?」

隣から小さな声で

「お前今度ラーメンおごりな」

って聞こえた気がした。


「これとかいいんじゃない?」

「いやこれはちょっと、僕は男物でいいよ」

は? いやダメだろ

「いや声出てるけど?」

は? そんなのダメだろエッチすぎるもん。要が上裸でパンイチ? そんなのほぼそういう企画モノじゃん。

「いやだから全部口に出てるって」

そうそう今レナが持ってるそういうかわいい感じのヤツでいいじゃん

「いや僕はルイと一緒に見てくるから……」

「いやダメだろ!」

「びっくりしたなぁ! いきなりでかい声出すなよ!」

「ああ、すまん」

何でって顔で要がこっちを見ている

「いや、だめだよね。さすがルイわかってる」

「何でダメなの‼ 僕は男だよ!」

「いやだからダメなんでしょうが!」

「じゃぁいい! 僕これ試着してくるから!」

と言って男性用水着をもって試着室に入る要

数分ののち

「ほら!」

と勢いよく試着室のカーテンが開く。そこには上半身が露になった要がいた

すごく、すごい。だめだこれは、だめなんだ

「上を隠せ!」

そう叫んでいたことに気づいたときにはカーテンを閉めていた

「なんか、ごめん」

「いや俺も、おっきい声出してすまん」

「じゃぁこれ、着てみよっか♡」


そのあとは多分、レナに着せ替え人形にされたんだと思うが、男どもは当日まで秘密なんだと。

「はぁ要の水着見たかったな」

「まぁ結局見れるんだし、いんじゃない?」

「え? 三週間お預け?」

「うん、がんばれ」

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