第5話

 伏せている彼に声をかける。

「ねぇ、起きなって。先生来るよ」

もう予鈴が鳴っている。

「ん?ああ、ありがとうレナちゃん」

「それと、次は数学じゃなくて古典だよ」

びっくりしていそいそと教科書を取り出す。なんか鳥が巣を作ってる……いや、ビーバーがダムを作ってる感じだ。可愛い。

「どうしたの? 僕の顔になんかついてたりする?」

「よだれ、顔についてるよ」

「え? ああ!」

くしくしとハンカチで口の周りを拭く。やっぱりかわいい。


 最初に出会ったときはよくいるくそみたいな同調しかできない女だと思っていた。でも話しているうちに、男の子だし、ちゃんと人の話聞いてるし。否定も肯定もできる、それに可愛い。一番印象に残っているのはほかの女の子たちと一緒に遊びに行った時だ

「これとかアンタに似合うんじゃない?」

「そうだね! レナちゃんが言うなら買っちゃおうかな!」

「うんうん! そうだよ! 買っちゃいなよ!」

そんなことをいう女ばかりだっただけど彼は違った

「いや、こっちのほうが可愛いよ。これと併せたらかっこいい感じになるし、麻衣ちゃんはかっこいいのが欲しいって言ってたよね? だからこっちのほうがいいんじゃない?」

その場は凍り付いた。その場の私以外が全員彼に敵意を向けた……でも、私は、うれしかったんだと思う。その時私は

「確かに、かっこいい」

それだけつぶやいた。そしたら同調クソ女たちが口をそろえて「そうだよね!」って言ってきた。だから気持ち悪くて。そのあとはほかの女は置いていろんなところに二人で回った。その時から私たちは「親友」として過ごすことになった。

でもその時から私はこの「男」が好きだった。


「れなちゃん! ご飯食べよ!」

要とルイと柊が近づいてくる。

「今日はどこで食べるの?」

「んじゃ、屋上でも行くか?」

「お! 今日はルイがさえてる!」

「じゃ、屋上行こ、レナちゃん!」

要に手を引かれて立ち上がる。この手を放したくない、けど、私はまだ「親友」だから。

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