1章 君を幸せにするために来たんだよ②
結局、その後も似たような交流が続いた。どうやらこの悪魔は実に
「あ、あなたはいったいなにが目的なんですか!」
「目的?」
教会に
「とぼけた顔で人々の生活に
「いいや、私は神の教えを説いているだけだよ」
「悪魔が!?」
「悪魔だけど。これも『クラウス神父』としての役目だからね」
どうあってもその主張を押し通す気らしい。
「……それなのに、わたしにだけ正体を明かしたのは
「そうだね、私はその為に
彼のブラウンの
「神父はあくまで仮の姿。ほんの少し
「……」
「私は
甘い
「ありえません。悪魔と契約を結ぶだなんて……曲がりなりにも聖女候補だったわたしがするとでも?」
「でも失格になって
きょとんとした顔で言われ、言葉に
「だとしても、お断りです」
せっかく苦労して
春先のひんやりとした風が、二人の間をざぁと
「わかった、その意思は尊重しよう。君が最終的な判断を下すまでは私も大人しく神父でいるよ。だけどね──」
わずかに両手を広げた彼の周りで空気が渦を巻く。熱を帯びた風が
「全てをひっくり返せる切り札が、君の手の中にあるということだけは覚えておくといい」
ここでニコッと人らしい笑顔に切り
「長旅で
この教会は礼拝堂の奥に居住区があり、ネリネは向かって右奥の一室を割り当てられた。決して広くはないが、清潔で住みよさそうな部屋だ。
ふらふらとそこまで歩いて行ったネリネは、荷物を
(ありえない、ありえない、どうしよう……)
左遷先の神父が悪魔だったなんて悪い
そこでハッとした彼女は、
さぁどこからでも来いと身構えていたが、昼から夕方になっても何かが来るということは無かった。木窓の
(初日は油断させるつもりなの?)
警戒を解かず、荷物の中から一冊のノートを取り出す。日記用にと持ってきたそれを広げると、ある計画を立てた。
(仕方ない、すぐには危害を加えて来る様子は無さそうだし、しばらくは
そうだ、これもまた神が
「ネリネ? 夕食の準備ができたよ、食堂においで」
ベッドから転げ落ちそうになるのを何とか
「すみません、あまり
「……」
ドアの向こうの
「そうか。何か欲しい物があったら
少しだけ
気配が去っていったのを見計らい、今後の生活を考える。
(明日から料理はわたしが作る。
その仕事量を思ったネリネは重たいため息をついた。これではシスターとして来たのか、メイドとして来たのか分からない。
その晩は
夢は見なかった。見たとしても
翌朝、日の出前にガバリと飛び起きたネリネはいつの間にか
過ぎたことを
まずは掃除、手始めに教会全体の
次に、急病人用の備品とリネン類の確認。この国では医者のいない地方は教会が病院も
常備している薬の中で、いくつかダメになっている物があったので、後で本部に手紙を書くことを頭のメモに書きとめておく。
その頃になるとだいぶ日も
──だからさ、アレは絶対に聖女候補だった人だよ!
ところが、商店通りに差し掛かった時、曲がり角から聞こえて来た声にネリネは足を止めた。何もやましいことは無いのだが、出ていくのが
「教会に新しく来たシスター! アタシゃ一度ミュゼルで見たことがあるんだよ。最初はピンと来なかったけど、でもあんな灰色の
「じゃああの噂は本当なんかね、ライバルのジル様を陰で
「だってそうでもなきゃ、こんな
ドクン、ドクンと
「きっと
「いやだねぇ、
「アタシらがしっかり見張っておかないと!」
(わたしがもっと明るい性格だったら、あんな事言われずに済んだのだろうか)
落ち込みながら教会への道をたどる。キィと
「おはようネリネ、昨日はよく眠れたかな?」
「……おはようございます」
ニコリともしないで返すが、クラウスは特に
「花はいいよ、
「はぁ」
確かにこの教会には花が多い。だが花を
パチンと
「
「……」
少なくとも
「まだ信用できないって顔だ。でもね、私は
何を言おうか迷っているうちに、彼は鼻歌交じりに行ってしまう。残されたネリネは少しだけ
(変な悪魔……)
しかし、ほころびかけた花を無下に捨てるのも
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