第15話わたくしのためだけに奏でられる旋律
♠桜花視点
連休3日目の目覚めは、最悪でした。
口や喉、胃腸が、痛くてヒリヒリします。
(激辛料理など、食べるものではありませんわ)
げっそりしながら、起き上がり……
ふと、兄の様子が気になりました。
ガチャリと兄の部屋の扉を開けて入り、兄の様子をのぞき込みます。
「う、うーん……」
わたくしと同じ物を食べ、わたくしと同じ苦痛を兄も味わっていると思うと、子宮のあたりがなんだか、キュウンと切なくなる。
が、
(悪夢にうなされてもいるような)
悪夢で思い当たるのは、兄が変わった最初のきっかけであろう出来事と、わたくしのためだけに奏でられた至高の音楽。
(わたくしのためだけに奏でた音楽は、わたくしだけがその真価をわかっていればよろしいではありませんか。わたくしの耳も感性も周囲の人達みたいに腐ってはおりませんよ?)
気がつけばわたくしは、兄のベッドに潜り込んで、兄を抱きしめて背中を撫でてしまっていました。
刹那、
兄がバチっと目を覚まします。
そして、わたくしの顔を見惚れるように見入りました。
兄の顔は、わたくしに似ていて結構ととのっています。
「そんな顔で見惚れられると、照れてしまいます」
わたくしは、顔がほてって赤くなるのを自覚します。
「寝起きでお前の美貌を間近に見ると、兄妹でも見惚れるの初めて知ったわ。いや……何をやってるの?」
「美貌だなんて……うなされていましたので。それと……真夏さんにとられた物をお兄様にお返ししようかと」
「え?」
ぽかんとする兄。なんだかとても可愛いらしいです。
「NTR返しですわ」
兄の寝顔を見て、キュウンとなって気がついたらベッドに潜り込んでいたなどと言えず……
「あー……うん。俺、多分、まだ寝ぼけてるみたいなんで、二度寝していい?」
「……えっと真夏さんには、胸も揉まれたのですけど。それも、お兄様に返して貰ってもいいでしょうか?」
何を言ってるの?わたくし。
「うん? ごめん、思考が追いつかない。 まじ二度寝するんで、起きてから詳しく話してくれない?」
思考が追いついていないのは、実はわたくし自身も同じです。
「二度寝をご一緒しても?」
「いいよ」
いいんですか? ダメもとで言ってみただけなのですが……
「起きたら、昼食にしましょう」
「うん。今日は、薄めのおかゆとかがいいかも。夜もできれば、おかゆで。激辛ラーメンで、胃腸が荒れてそう。桜花は大丈夫?」
「口も、のども、胃腸も痛いし、完全同意ですわ」
「おかゆくらいなら、俺が作るよ。昨日はひどい目にあったけど、まぁ、不思議と楽しくもあったな」
“お兄様の料理は、素材が死んでいるのですわ”と言ったわたくし。へこんだ兄。しかしながら今回のおかゆは、優しい味になると、期待します。わたくしと同じ苦しみを兄自身も体感されてますから。
「わたくし達と互角にやり合える相手だから遠慮がいらないからでしょうか? それに真夏は、わたくし達の
「“第15使徒・アラエル”あたり?……だから、例えが古いんよ。しかも、厨二病ちっく。まぁ、わかるけど……」
「ブフッ……アラエルはヤバい、ですわ」
わたくしは、吹き出しました。
ぱっと、アラエルという固有名詞が出てくるあたり、兄も筋金入りだと思うのです。
「とにかく。このダメージは、あと3時間は休眠を取らないと回復しない。ということで……おやすみなさい」
「おやすみなさい……お兄様」
お兄様の頬にチュッと口づけするわたくし。
この気持ちは、(恋ではない)とわたくしは、思います。
恋とは、孤悲です。相手を求めて、独りで物思いにふけるのが孤悲。
わたくしは、その道を選ばなかった。
ならば、これは愛と呼ぶべきなのでしょう。
いきすぎた愛――
そんなことを考えながら、兄の胸に自分の顔を埋めます。
兄から伝わるあたたかな体温やドクンドクンという鼓動は、わたくしのためだけに奏でられた至高の旋律を連想させ、ずっと聞いていたいと感じました。
そうしているうちに、昼過ぎまで眠ってしまうわたくし達なのでした。
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