第14話NTR返し
「またあの子なの?」
「もう殿堂入りでいいんじゃない?」
「というか、出禁?」
「うちの子、ものすごく頑張ってたのに、入賞止まりってどういうこと?」
「あの子が“
「何それ? 許せない。許せない。許せない」
大事なことなのか、3回言った。
俺にとっては、情熱のかけらもないこと。嫉妬からか、くだらない悪意のみで他人を呪い貶める人間の気持ちなど微塵もわからない。
(久しぶりに外出できた妹のために、心を込めて弾いてやっただけなのに)
賞をとろうと弾いたことなどない。
弾くのは、四季の移ろい、大自然の情景、人への想い、作曲家の想い、弾き手の聞き手への想いなどだ。
心を込めた本物の演奏とテクニックを形式的に練習してきただけの演奏を比べて、出てくる言葉が「“一色”だから、じゃない?」なの、耳と心と感性が腐ってるんじゃないか?
(クソつまらない)
確かに地元の経済は、どこまでも“一色”が握っている。
あいつらも子供の俺にまで普段は必死に顔色を伺うクセに。
そんな悪意に満ちた気色の悪いことばかり影で話しているの、本人の耳に入って無いとでも思っているの??
(俺の地獄耳、なめんな!)
俺は、世間の大人も子供も二枚舌かつ裏表が激しいということを早くから学んだ。
そして。そいつらと表面上、笑顔の仮面で利害関係だけで関わり続けることが、心底嫌になっていった。
♠
(あの頃の夢か)
3連休の3日め、体と消化器を痛めつけた後だったからか寝付きが悪く、夢見も悪かった。
昨日は、桜花や真夏や勇太と柔軟したり走ったり、筋トレしたりしてからテニスのダブルスで対戦したりした。男女混合ダブルス。
組み合わせは、俺と桜花・真夏と勇太のペアである。
「ももっちとさくらっち、ボクたちより連携良くない?♪」
「この2人。パワーはないけど、何処に打ってもアイコンタクトと最小限の声かけと動きでボールに追いついて拾ってくるんだけど」
「たまにくるすごい体勢からの超アングルショットもエグい。その平衡感覚、なんかの体術……武術を習ってたでしょ?♪」
「わたくし達は、2体で1体の
「太極拳な。それから、妹よ!
それに、出典が古い! 親の代の漫画をからである。 [※作者注 “うしおととら”です]
俺達は、ピアノ以外に太極拳も習っていた。桜花の難治性喘息の対症療法として。
「「あはは」」
ダブルス対決は接戦ながら、俺達の勝利!
それから弁当を食べて、テニスウェアやテニスシューズやラケットやボールなどを買いに行った。形から入るのが我が家流。
で、晩ごはんは、ダブルスで負けた方の奢りである。
「これは〜どっちの罰ゲームなんだぁ?」
真夏にメニューを任せたのが、いけなかった。それで、消化器官を痛めつけられたのだ。
「
涙目で弱音をはく、珍しい桜花。
「うん。つらいし、痛い!」
完全に同意。
晩ごはんは、唐辛子が何本も浮かぶ真っ赤な激辛ラーメンだったのである。
真夏と健太が平然と食ってるの、信じられないんだけど。
俺達兄妹は、涙目になりながら完食。そして、解散して各自の家に帰って現在に至る。
♠
意識がぼんやり覚醒しつつある。
なんか、温かくて柔らかくていい匂いのするものに包まれて背中を優しくさすられているような。
俺は心地よさのあまり、それをぎゅっと抱きしめる。
全身筋肉痛、胃腸は荒れ荒れの上、悪夢にうなされていたはずなのだが……
バチッと目を空ける。
そこにあったのは、慈愛に満ちた清らかで美しい女神か天使か聖女の顔のドアップ(ただし極めて小顔)であり?
(
寝起きでいきなり思考停止。
酒も飲んでないのに……
「そんな顔で見惚れられると、照れてしまいます」
顔を赤らめて照れる美の女神。
「寝起きでお前の美貌を間近に見ると、兄妹でも見惚れるの初めて知ったわ。いや……何をやってるの?」
よく見ると、我が妹が同衾して、優しい顔で俺の背中をなでなでしていた。
「美貌だなんて……うなされていましたので。それと……真夏さんにとられた物をお兄様にお返ししょうかと」
「え?」
「NTR返しですわ」
「あー……うん。俺、多分、まだ寝ぼけてるみたいなんで、二度寝していい?」
妹を見て、(Dear Venus?)は寝ぼけてるとしか、思えない。
そして、「NTR返しってなに?」と聞き返す気力もない。
「……えっと真夏さんには、胸も揉まれたのですけど。それも、お兄様に返して貰ってもいいでしょうか?」
桜花のやつ。恥ずかしそうな顔で何を言ってるの??
「うん? ごめん、思考が追いつかない。 まじ二度寝するんで、起きてから詳しく話してくれない?」
真夏の所業をおれが返済しないといけない意味って? 真夏の連帯保証人になった覚えはないぞ??
確か、連休1日目に「添い寝してよしよししてあげましょうか?」という桜花の提案を普通に断ったはずだ。なんで、連休3日目に一緒に寝てる?慈愛に満ちた顔でよしよしされてる??
「二度寝をご一緒しても?」
「いいよ」
良くない。が、桜花にも休眠が必要だとも感じた。桜花も部屋まで戻って寝直すの、おっくうなのだろう。
俺は、弱った妹をベッドから無下に追い出す程の鬼兄ではない。
「起きたら、昼食にしましょう」
「うん。今日は、薄めのおかゆとかがいいかも。夜もできれば、おかゆで。激辛ラーメンで、胃腸が荒れてそう。桜花は大丈夫?」
「口も、のども、胃腸も痛いし、完全同意ですわ」
「おかゆくらいなら、俺が作るよ。昨日はひどい目にあったけど、まぁ、不思議と楽しくもあったな」
「わたくし達と互角にやり合える相手だから遠慮がいらないからでしょうか? それに真夏は、わたくし達の
「“第15使徒・アラエル”あたり?……だから、例えが古いんよ。しかも、厨二病ちっく。まぁ、わかるけど……」
また、親の世代だ[※作者注 新世紀エヴァンゲリオンです]
まぁ、うちの両親も漫画やアニメやラノベが大好きだし、俺達は親世代の影響も多大に受けてるんだけど。(その世代の再アニメ化や映画化も多いし、親と一緒に見たりもした)
俺なら、絶対恐怖領域と書いてATフィールド(Absolute Terror Field)と読んでるのも分かるけども。
「ブフッ……アラエルはヤバい、ですわ」
桜花は、吹き出した。俺の顔の超至近距離で。
「とにかく。このダメージは、あと3時間は休眠を取らないと回復しない。ということで……おやすみ」
ホラーを見て、激辛ラーメンを食べて……俺達だけでは絶対に忌避する行動。“楽しい”は大ダメージを受けて、脳がバグっただけかもしれん。
「おやすみなさい……お兄様」
頬にチュッと口づけされた気がするが、定かではない。
そのまま、桜花と添い寝で抱き合ったまま昼過ぎまで爆睡。
品行方正で努力家の桜花が昼過ぎまで眠ることなど、極めて珍しい。
大ダメージを受けて弱っていたのは、桜花もまた同じだったのだ。
(俺達に、ここまでのダメージを与えるとは……あれが“一条”か!)
もちろん、起きてからも桜花の胸を揉むという意味不明な行為は固辞。桜花の胸は別に俺の物じゃないし。【NTR返し】の意味もわからなかった。
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