55.公爵家から除籍します
ギータ様と腕を組み、久しぶりに階下へ降りた。神殿関係者が騒いだ際に割れた花瓶などを片付ける執事と侍従に挨拶し、公爵がいる執務室へ向かう。公爵夫人へは侍女を通じて、執務室へ来て欲しいと伝えた。ノックして声がかかるのを待ち、入室する。
疲れた顔で机に肘を突いていた公爵が、慌てて立ち上がった。笑顔でソファを勧められ、先に座ったギータ様のお膝に座る。ソファに腰掛けて笑顔でぽんと膝を叩かれたら、断れない。ここで不仲を見せたり言い争いをすることは避けたかった。ギータ様、策士ですね。
逃げ道を塞がれた私は、すとんと彼の膝に座って腰に回る腕に手を重ねた。これで仲良く見えるかしら。と思ったら、ぐいと引き寄せられた。
「きゃっ」
倒れ込むようにギータ様に寄り掛かり、嬉しそうな彼の笑顔に降参する。
「仲が良くて何よりですな」
公爵がそう呟いたのと同時にノックが聞こえ、公爵夫人が入ってきた。ギータ様に最上級の礼を捧げ、静かに公爵の隣の一人掛けソファに落ち着く。人形相手に狂人じみた振る舞いをしていた名残はなく、落ち着いた貴婦人のようだった。
「お久し振りです。お父様、お母様」
先に挨拶を切り出し、主導権を握る。こういった場面では、落ち着いて対処するのが大事。ひとつ深呼吸した。胸がどきどきして張り裂けそう。緊張で心臓が飛び出しそうって、こういう場面で使うのね。意味もなく唾を飲み込んだ。
「元気で何よりだ。ギータ陛下とうまく行ってるようで安心した」
「本当に。幸せそうで私も嬉しいわ」
ここに国で最高位の神様がいるのに、挨拶は私へ向けられたもの。今回の人生で溺愛を向けた彼と彼女を見つめながら、私は前回の人生で習った淑女の微笑みを貼り付けた。僅かに口角を持ち上げ、目は半分ほど伏せて、柔らかく見えるよう装う。
「まずギータ様への挨拶が欲しかったです。いつもそう、お二人は溺愛する娘以外は目に入らないのですね」
前回の記憶があれば理解できる。でも今の二人には、分からないだろう。困惑した顔の二人に、私は一気に言い切った。
「本日限りをもって、私はソシアス公爵家を除籍します」
ただ離れる離脱ではなく、除籍と言い切った。手続きは後でいい。
「な、何を!」
「そうよ。あなたは私達の大切な娘なのよ」
この言葉を、あなた達が前回も口に出来ていたなら。結果は違っただろう。私はここまで突き離さなかったし、ギータ様も公爵家を追い落とすような言動はしなかった。
「何か悪かったなら直すから、そんな恐ろしいことは言わないでくれ」
公爵の口から漏れた嘆願に、ギータ様がにやりと笑った。
「ならば、悪かった部分を教えてやろう」
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