第13話 第二王子の野心
王城のとある一室。赤い革仕立てのソファーに座る金髪の男――第二王子のウォレンツは、呼び立てた男に声をかけた。
「あれはどうなったのか、報告してくれ」
「はい」
頭を下げていた男は、顔を少し上げて自信たっぷりに笑った。さらりと肩の上で切りそろえられた茶髪が揺れる。使用人の服は着ていない。鮮やかな刺繍が特徴的なコートを着ている。
彼は第二王子が私的に雇った貴族だ。
独自の情報網で、まだ生きているのではないかという邪悪な大魔法使いを探し出せるという。
「今、調査中ですが、必ずや良い結果をお待ちできるでしょう」
「いつなったら、わかりそうか?」
ソファーに深く腰かけていたのに、身を乗り出して聞き返す。第二王子は早く結果が知りたかった。大魔法使いを捕まえる手がかりを。
「数日以内には。――闇の薬屋という店が怪しいと思っております」
「闇の薬屋とは?」
第二王子が知らない店の名前だった。
説明を求めると、男は淡々と言った。
「一部で噂がありまして、訳ありの薬を売るところで、若返りの薬など貴婦人に人気ですよ」
「……それは、俺も興味があるな」
「若返りの薬は、まだ残っていますよ。お渡ししましょうか」
「ほしいな。くれ」
今は二十代だが、体力が衰えてきたときに若返ることができれば、強い肉体を手に入れることができる。いずれ、王位を継いだあとでも、在位期間が長くなるだろう。
男が革のカバンから小瓶を取り出した。
「こちらです」
「これが、若返りの薬か……」
受け取った第二王子の目が輝いた。
小瓶に紫色の液体が入っていて、少し傾くと、中身がとろりと動いた。
だが、第二王子の甘い妄想を、男は早々に打ち砕いた。
「あ、一つ言い忘れておりました。若返る代わりに、寿命が減るのでございます」
「……なんだ、先に言っておくれよ。変に期待してしまったではないか。そんな薬はいらない」
すぐに興味を失って、若返りの薬をつき返した。寿命の方が大事だ。
男はハハハと笑いながら、カバンの中に薬をしまう。
「ウォレンツさま。最初に言ったではありませんか、訳ありの薬です、と」
「訳ありの薬か。闇の薬屋とは、聞くからに怪しい店だが、どんな風に怪しいのか?」
「最近、新しく入った店番の女の子がいるんですよ」
「もしや、その子が魔力持ちなのか?」
「その可能性が高いです」
「……ただの魔力持ちは、捕まえて終わりだな」
王国では魔法使いがいたら牢屋に入れる決まりとなっていた。昔、魔法使いたちに国を滅ぼされそうになったからだ。
「大魔法使いのエサになるかもしれないのですよ」
男には良い考えがあるに違いない。ただの魔力持ちには大魔法使いは見向きをしないだろう。店番の女の子やらが、大魔法使いの守りたい理由――大切な人でもなければ。
「……そうか」
そう言って、第二王子はそれ以上聞くのはやめた。
第一王子をさしおいて次期国王になるには、大きな手柄を立てなければならない。大魔法使いを捕まえて処刑すれば、国民は喜んで三日三晩祭り騒ぎになり、絶大な権力を持つ国王の信頼を得られるだろう。
ともかく、あせらずに吉報を待つしかない。
どんな方法を使っても、大魔法使いが手に入ればそれで良いのだ。
「期待しているぞ、ロマニオ」
「仰せのままに」
ロマニオは羽付きの帽子を手に持ったまま、礼儀正しく頭を下げた。
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