第4話 リンドル街道迎撃戦
青々とした葉が風にさざめく森の中、人の手が加えられて整えられた道の途中で星奈たちは立ち止まっていた。ジェイクが何かの足音に気が付いて皆を制止させたからだ。立ち止まって会話を止めたことにより、ジェイク以外のメンバーも背後からの足音……それも複数いると思われるそれが迫ってきていることに気が付いた。
「このまま村まで戻れると思ってたんだが……仕方ない、最後に一仕事してから帰りますか」
「もちろん仕事が増えたんだから、その分の手当は出るんだよなリーダー?」
「ああ、後で俺がたっぷり褒めてやるぞ」
「そりゃ、ありがてぇ」
軽口を叩き合いながらジェイクとミハイルは後ろをゆっくりと振り向いて、ジェイクは星奈を救ったクロスボウ。ミハイルはスラリとした刀身が
「了解です! か、活躍してみせますよ!」
「ん、了解」
ジェイクとミハイルに続いて、ケンドが自分自身の
星奈が不思議そうにエマを眺めていると星奈の前にジェイクが前を塞ぐように立った。
「セーナは俺たちの後ろにいてくれ。怪我はしたくないだろ? 護衛の代金はサービスしてやる」
「う、うん。分かった」
素直に星奈が頷くと、ジェイクはニカッと白い歯を見せて笑い、そして再び前方……さっきまで彼らが歩いてきた道を見据える。
足音は更に近くなり、道の両脇の茂みが激しく音を立て揺れ、木の葉を無数に散らせる。
「来るぞ!」
ジェイクの言葉をまるで合図のように茂みからさっきまで星奈を追ってきていたあのゴブリンと呼ばれた怪物の群れが飛び出してきた。ジェイクが目視できるだけでも10体はいるだろう。
瞬時にバスッという何かを弾くような音と共にジェイクのクロスボウから鋭い矢が放たれ、茂みから飛び出してきたゴブリンに向かって宙を切り裂くように飛んでいく。そして、舞っていた一枚の葉っぱを砕くとほぼ同時にそれはゴブリンの眉間へと突き刺さった。
「グギャアアアアアアア」
甲高い悲鳴を上げながら後ろに吹き飛んでいくゴブリンを気にする素振りも一切なく、他のゴブリンたちは我さきへと自警団たちに向かっていく。
そしてその先頭のゴブリンが鋭い爪を振り上げ、地面を土を抉るほど勢いよく蹴り上げミハイルに飛び掛かった。
「お、流石リーダー。賭け射撃の為に必死に練習してるだけはあるな」
そんな軽口を飛ばしながらミハイルは腰を落とし、飛び掛かってくるゴブリンの横を通り抜けるように斜め前方へと踏み込みながら流れるように剣を振り払う。するとミハイルを狙っていたゴブリンの体に斜めに紅い線が走ったかと思うと、激しい血しぶきを上げながら地面へと転がり落ちた。
(なにこれ……? やっぱ私、夢でも見てるのかな?)
今までの日常とかけ離れたその一部始終を目にした星奈は、
「どりゃああああああ!」
槍にゴブリンを一体突き刺したまま、ケンドは威勢の良い声を上げながら今度はその槍をまるでハンマー投げのように振り回すと、突き刺さったままのゴブリンごと他のゴブリンにぶつけて蹴散らし、槍に突き刺さったゴブリンはその勢いで槍から抜けて地面に激しく打ち付けられるとピクリとも動かなくなった。
「やるじゃないかケンド!」
ケンドを称賛しながらもジェイクはクロスボウで1体、2体と次々にゴブリンに矢を突き立てていく。更には矢から逃れてジェイクの近くまで迫り、彼を爪で切り裂こうとしたゴブリンを、腰に装着していた短剣を素早く抜き打ち、その喉元から血しぶきを上げさせると強烈な蹴りで吹き飛ばした。
(ほんと……ファンタジーの世界にでも迷い込んだみたい……)
未だに目の前で繰り広げられている出来事が現実なのか夢なのか曖昧なまま、それを眺めていることしかできないでいた星奈の耳に、こんな騒ぎにも関わらずエマの声がハッキリと聞こえてきた。
「魔を祓う原初の力よ……言の葉の誓約の下にその力を……」
(なに……? ポエム……な訳ないか……呪文?)
「具現せよ 炎撃【フラムスピア】」
呪文を唱えていたエマの周囲がキラキラと紅く瞬き、呪文名を宣言しながら腕を振り下ろし、指で攻撃対象を指し示すとエマの指先に炎の渦が発生した。それはまるで炎の槍にように形を変え、ゴブリンの密集している場所を目掛けて
(今のって……魔法? 本当にそんなのありえるの? いや、落ち着いて考えろ私……いや、落ち着けないわ)
澄ました顔で内心混乱しながら自警団とゴブリンの群れとの戦いを眺める星奈を置き去りに、彼らは手慣れているのか危なげなくゴブリンたちを撃破していった。時々、ケンドが怪物の攻撃に晒されそうになる時はあったが、そのたびにジェイクとミハイルがフォローをして救っていた。
「しかしただのゴブリンの群れにしては数がやけに多くないか? さすがにこの数は手間が掛かってしょうがねぇや」
「まぁ、確かに今までこんな数を相手にした記憶はないな。俺が酔ってて忘れてない限りはだけどな……とはいえ、あと少しだ踏ん張れ!」
自警団がゴブリンを次々撃破していく中、残りわずかとなったゴブリンたちの1体が彼らの隙を付いて星奈の近くまで接近していた。そしてゴブリンが星奈へと飛び掛かり、星奈とジェイクたちがそれに気が付いた時にはもう明らかに手遅れの距離だった。
「しまった……! セーナ!」
「……ッ!?」
血走った目で鋭い牙を剥き出しにし、明白に命を奪い取ろうと襲い掛かってくるゴブリンを目の前にして成す術もない無力な星奈はまた全身が冷たくなるのを感じた。以前にもあった死の感覚だ。恐怖すら抱くこともできず、彼女にあったのは諦め、それだけだった。
(まぁ、別に生きてたところでどうこうする訳でもないし……別にいいか……)
(でも……死ぬのもなんだか
目の前に迫るゴブリンは星奈に襲い掛かろうとする態勢のまま宙で動きをピタリと止め、ジェイクたち自警団も慌てた表情を星奈の方に向けたまま動かない。
「な……なに? 今度は一体なんなの?」
その時だった。静止した世界の中、一人取り残された星奈に聞き覚えのある声が聞こえた。
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