第3話 リンドル自警団との出会い
星奈の
そしてきちんと整えられた短い茶髪が印象的で星奈よりも背の低い小柄な少年と、金髪を首の後ろで束ねた軽薄そうな顔をした、優男という言葉がお似合いの青年に、星奈と同じぐらいの年齢と思われる、ローブを纏いフードを被った赤髪の少女。その全員が鉄製の胸当てや剣や槍などで武装していたことが星奈を驚かせた。
星奈は村へ案内してくれるというその4人と共に整備された道を進んでいく。
「いや、危ない所だったな。偶然、俺たちがこの辺りを巡回してなかったらきっと命は無かったぞ? 装備どころか荷物も持たずにあそこで何をやってたんだ?」
星奈の隣を歩く黒髪の青年がいかにも星奈に興味津々といった風に目を輝かせながら質問を投げかけてくる。
「や、私もよく分かってない。気が付いたらこの森の中で倒れてて……あんな訳の分からない化け物までいるし……一体ここはどこなの?」
「おいおい、記憶喪失ってやつか?」
(記憶喪失……確かにあそこで目を覚ます以前何をしてたか全く思い出せないけど、少なくとも私はごく普通のつまらないありふれた生活を送ってたのは覚えてる。毎日毎日、くだらない学校に行って……少なくてもあんな化け物と遭遇するなんて漫画とか映画とかの世界でしかなかった筈……)
思い出そうとしたところで、相変わらずに記憶には
「思い出せないなら無理して思い出すことはないさ。美人が台無しだぜ? ほら、リラックスリラックス。いきなりゴブリンに襲われたショックとかもあるだろうし、きっと村で休めばそのうち思い出せるさ」
(ゴブリン……あの怪物のことかな。それにしてもなんか距離が近いな……)
人の気も知らないで軽く言ってのける青年に星奈はわずかな腹立たしさを覚えたが、無邪気そうな笑顔を浮かべる青年を見て、考え込むのもなんだか馬鹿らしく思えた。正直な所、この4人に警戒心を抱いていない訳でもないが、他に頼れる人間が星奈にいない以上は彼らに従う以外に手段はなかった。
「まだちょっと混乱してるけど……まぁ、少しは気が楽になった。……ありがと」
「ジェイクの能天気っぷりが役に立つなんて珍しいこともあるもんだなぁ。それに俺より先に可愛い子ちゃんを口説きにかかるなんてジェイクのくせに生意気だぞ」
星奈たちを先導するように前を歩いていた軽薄そうな青年が斜め後ろに顔をひょいと向けて、先ほどジェイクと呼ばれた黒髪の青年をからかうようにニヤリとした笑みを浮かべる。そんな軽薄そうな青年に対してジェイクは笑いながら言い返す。
「うるせぇぞミハイル。お前と一緒にするんじゃねぇ! 俺は正直に思ったことを言ってるだけなんだ」
(ジェイクにミハイル……これが二人の名前? ここは日本じゃないの……? いや、でも言葉は普通に通じてるし……でもこの人たち剣とか弓を当たり前に持ち歩いてるし恰好だって日本っぽくないしやっぱ違う国? ……ほんと意味わかんない)
次から次へと浮かんでくる疑問に星奈は
「そういえば自己紹介がまだだったな。俺はこの近くのリンドルっつう村のジェイクだ。で、この見ての通り浮ついてるのがミハイルって奴だ」
「なんつー紹介をしてくれんだよぉジェイク。そんなんじゃこの子に俺のこと勘違いされちまうじゃねーかよ。……こほん。やぁ、お嬢さん。紹介に預かったミハイルだ。確かに軽い人間に見えるかもしれないが、それは場の空気を和ませるための仮の姿で実際には騎士さまも真っ青な実直な人間って訳だからそこんところよろしくな」
急に始まってしまった自己紹介を星奈は適当に
「ほら、お前らも自己紹介しとけ」
「は、はい!」
ジェイクに
「同じくリンドル村出身のケンドと申します……! み、未熟者ですがどうかお見知りおきを……!」
「緊張しすぎだろケンド。騎士団の試験に来てる訳じゃないんだぜ」
ミハイルが肩を
「ま、とにかくオッケーだ。ってな訳で最後はエマだな」
(エマ……あの女子か)
ジェイクは半身を後ろに向け、ケンドと並んで着いてきている少女に視線を向け声をかける。すると少女の紅い瞳の視線が一瞬、星奈の視線と交じり合うが少女はすぐに目を逸らしてしまった。そんな少女の様子に星奈は
視線を外した少女の紅色の瞳が炎のように
「ジェイクの言った通り……私の名前はエマ。……それだけ」
想像よりも遥かに拍子抜けするほど簡単な自己紹介に星奈は思わずジェイクに視線を向けた。そんな星奈の言わんとすることを察したのかどうかは分からないが、ジェイクは肩を
「ま、この通りエマは人見知りだからな。これぐらいで勘弁しといてやってくれ。という訳で以上がリンドル村の自警団メンバーの紹介だ。で、アンタは一体何者なんだ? 覚えているかぎりでいいから教えてくれると嬉しいね」
自警団だという彼ら全員の視線が自分に注がれているのを星奈は嫌というほどひしひしと感じていた。自分自身が注目されているという事実に全身の温度がスッと下がるような気がしたが、ここで彼らの質問を無下にしても仕方ないと割り切り彼女は彼らの要望に応えることにした。そんな少女は表情をあまり変えずに静かに口を開く。
「私は柊其
その言葉を聞いた自警団たちは困惑するようにお互いの顔を見渡していた。特に変な事を言ったつもりはない筈なのだが……眉をひそめて自分の言葉を思い返している星奈に再び声を掛けたのはジェイクだった。
「ヒイラギセーナ? ガクセー? 気を悪くさせたらすまんが妙に長くて変わった名前だな」
「いや、柊其が苗字で星奈が名前」
「苗字だって? 苗字を持っているってことはアンタ貴族なのか?」
ここまでのやりとりで星奈は今まで薄々感じていたことがほとんど確信へと変わりつつあった。先ほどの怪物といい、日本とは思えない恰好や武装をした彼ら、そして言葉が通じているのに妙に嚙み合わない会話。それらを踏まえて辿り着いたある考えに星奈は深くため息を吐いた。
(なにこれ? まだ全然この状況を掴めてないけど、どう考えてもここが日本には思えない。けど、だからといって単純に外国なんて訳でもなさそうだし……なに? 異世界にでも迷い込んじゃったって訳?)
星奈は混乱する頭で自分の考えを整理してみるが、考えれば考えるほど訳が分からなくなった。もしかしたらこれは少しだけリアリティのある夢というオチなのでは?という現実逃避じみた考えが浮かび始めた頃、深みに沈んでいた星奈の思考はジェイクの声によって引き戻された。
「どうした? やっぱまだ混乱しているのか?」
「あ……うん、そうみたい。えっと、私の名前は星奈。取りあえず思い出せるのはそれだけ」
「セーナ……なるほど、セーナか。良い名前だ、似合ってるぜ」
「あーなんかちょっと違……まぁ、いいか」
一先ず、自警団メンバーは星奈の言い分に納得はしたようだった。そんな様子の自警団を見て取りあえずこの場を
一通りの話を聞いて満足したジェイクは正面を向き直し、背負っていたクロスボウを担ぎ直した。すると彼は突然周囲を軽く
「どうやら熱心なファンがいるみたいだな」
ジェイクがそんな軽口を言う。星奈たちの後ろからは何かの足音が徐々に迫ってきていた。
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