第2話

「婆ちゃん達者でな.」

「げんちゃん,どこ行くの.」

「ちょっと遠く.」

婆ちゃん,ごめんな.

俺,げんちゃんじゃねぇわ.

さっきから,玄関鳴ってる.

そろそろ出ないと,踏み込まれるかも.


片方だけ,しっかり靴を履き込む.

「はい.」

言葉と共にドアを,ゆっくり開ける.

5-6人ってとこか.

「つづみ.椎菜つづみだな.」

「えぇそうですけど.」

防犯カメラ避けたつもりだけど映ってた?

「同行願う.」

「ちょっと準備してきます.」

「そのまま,どうぞ.

逃げる奴いるからね.」

あぁ,その通り.

「ここ,貴方の家?」

「違いますよ.

少し厄介になってました.

ちょっと,御年配のご婦人は認知入ってて.

げんちゃんって言われるんですよね.

それなりにお世話しましたけど,

全くの赤の他人です.」


「っから,悪いようにはしないでくださいねー.」

言いながら,ベランダに土足で走るっ.

「おいっ!」

ここで,捕まらない.

ベランダ下に片っぽ靴を落とす.

ここ5階,普通に飛び降りたらお陀仏.

高層マンションからの卵落下は危ない.

らしい.卵1個分の小ささでも重力かかってたらね.

婆ちゃんの話より.

卵も物自体は知ってますよ.脆い殻は赤子のようって.

だから,靴はもっと危ない.

かもしれない.上から物を落下させて楽しむ趣味なんて無い.

下に誰もいませんように.

よしっ.

飛ぶっ.

半分,靴の重みで,ゆっくり地上に身体は落下.

あんま,そうそうない事から,

目は閉じなかった.

案外,綺麗に世界が見える.

生きてる暮らしてる灯りが

あちこちで点灯して,きらきらきらきら.

上を見上げれば,

時々,大きな地球が惹きつけ

小さな星が瞬く.

こんな世界でも.

ゆっくり降りていく.

頭の中の計画は旨くいってて,実際も旨くいってた.

結構無茶はやってみるもん.

うん上から同じように降りては来てない.

皆,重りが付加された靴履いて,この世界で生きてる.

色々背負ってんのに,目に見えないもんを.

目に見えてる物まで足して履いて,地に足付けて,

どうにかこうにか生きてる.

地球の重力感じて生きるって選択肢を捨てて,

意地と尊厳を選んだ.

そこに,何を見出せばいいのだろう.

戻るって選択肢は無いのだろうか.

おっしゃ.

着地っ.

靴も少し離れた所で発見.

ざっと見た感じ,

倒れてる人もいないから,

結果論,靴は誰にも当たらなかった.

ちなみに,靴はきちんと着地しているから,

今日は晴れ.

先行きも晴れていますように.

加えて言うならば,いつも底が下に着地するようになってるから.

常に晴れてる靴占い.

靴履いた右足で地面を蹴って,ちょっと跳躍しながら,

靴元まで急ぐ.

上見上げても,ベランダで見下ろす捜査員しか見えない.

2つ位頭見える.

他はエレベーター使うか.階段か.

婆ちゃんの感じも見えて,余裕は無いけども手を振る.

本当に,またな.

飛び降りてくる奴ら居ねーじゃん.

左足履き込んで,走るっ.

取り敢えず繁華街.

パーカーのフードは,悩んで被らない事にした.

被った方が目立つ.

靴メーカーさんの企業秘密で分からないけど,

体格読み込んだら最適な靴をはじき出してくれる.

この靴ないと,ふわふわ浮きながら暮らす.

それも良さそうだけど.

そんな奴いない,この世界に.

どの位,逃げられるかな.


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