第25話 ニールより

走り去る車を眺め離れた妹を思う。


あの日、俺は妹に全てを押し付けた。

患者として自分が戦わなければいけなかった未来全てを。

駄目な兄で本当に悪いそう何度謝っても許されないだろう。

妹に散々塩対応してきたのに今更都合が良い兄だと思われても仕方のない。


今日ここに来れば会えると教えてもらい来たものの声をかけることすら許されない。

お前は大丈夫か?今元気でやっているのか?

そんな家族ならかけられる言葉すら妹にかけてやることが出来ない。


ただ少し救われたのは妹が楽しそうにしていたことだ。

あの日妹は夢心地だったのだろう。

きっと妹の心のなかでは過去の夢を見ていたに違いない。

俺はそんな夢を利用して妹に責任を押し付けた。

もしそんな妹が今辛い思いをしていたら俺は自分の罪さえ忘れてきっと許されないことをしただろう。

組織なんて全部捨てて妹の為に動いただろう。


今日の妹の仕事は遠い場所から見ていた。

能力を使うことがあんなにうまくなっているとは知らなかった。

関東池袋地区全域にまで及ぶ能力はあまりに強大で兄だというのに知らないなんて恥ずかしい。

今回少しでも手助けが出来ればと過激派の連中を抑えていたが、もしかしたらそれすら不要だったかもしれない。


「大きくなったな」


これからも見守ろう。

今までできなかった分妹を助けよう。

決して顔を見せることは許されないけれどそれでも兄として妹を助けよう。


「にぃーなぁ?なーにしてんの?」


自分の背後から同じ革命家の女が覗き込んだ。

彼女の名前はドルチェ

仮面の下だというのに彼女の張り付いた笑顔が見えるような話し方だ


「なんでもない」


「ねぇねぇ、今あそこ吹っ飛ばしたら絶対面白いんだけどっ」


妹がいなくなった今ホワイトキューブに用はない。

ドルチェは患者もろとも爆破するつもりらしいがその中には妹の助けた人間もいる。

妹が傷つきながら助けた命もいるのだ。


「言ってるだろ。俺たちは医療機関は襲わない。」


「つまんなーい。いいじゃんあそこにたっくさんいるんだよ?私たちの好物ッ!」


革命家にはこういう人間もいる。

ドルチェも過激派に殆どどっぷり足を突っ込んでいるが不思議と俺の話は聞いてくれる

今回過激派を抑え込んだのも何を隠そう彼女のお陰だ。


「ねぇねぇじゃぁご褒美ちょーだい?」


「ご褒美?」


「そっ!私ちゃんとにぃーなの言うこと聞いたでしょ?やくにたったでしょ??」


「そうだな。じゃぁ、ケーキでも食べにいこうか。」


「やったぁ!!んとねぇ、モンブランとフルーツタルトとミルフィーユと」


「どれか一個にしないならこのまま帰るぞ。」


「えっ!??!?嘘嘘ッ!!タルト!!そうフルーツタルトにする!!」


「分かった。行こうか。」


ニーナ、また任務の時に会おう

ニーナが本当に闇烏に入るという決断をしてくれて良かった。


ニールは外していた自分の仮面を再び装着した。笑うことなんて殆どないニールにとってこの仮面は偽りの笑みを浮かべてくれる便利な仮面だ。だから革命家になった時に師に手渡された時笑い顔の仮面に抵抗があったが今ではかなり重宝している。

そんな仮面を付けたニールはドルチェに合図をし住民にまぎれ姿を消した。

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