第20話 初任務⑧
一方のBチームにも動きがあったようだ。
『こちらも3Fで締まっている扉を一部屋確認。このまま向かいます。』
『了解。』
この部屋は扉を開ける前から中に人がいることが分かった。扉越しに大声が聞こえていたからだ。ジュシュが扉をこじ開けタケルが戦闘態勢とるなか開かれた扉の先には異様な光景が広がっていた。部屋全体が紫なのだ。壁紙が紫だというだけではない小物や靴そしてトイレやバスといった設備まで全てが紫。確認をしながら進むが大声はリビングから聞こえておりまだBチームが部屋に入ったことも気付いていないようだ。
「俺、このドアあけるの怖いぜ。本当に気味悪い…。」
タケルが嫌そうな顔でジョシュをみたがジョシュは同情することなくリビングへとつなぐ扉を指し先に行けと指示した。
「もうちっと優しくできねーかね。」
「無駄口が多い。」
リビングへと続く扉をそっとあけると中には今までよりもっと異様な光景が広がっていた。何本も建てられた赤紫色の蝋燭が部屋のいたるところで燃え窓が封鎖された部屋に香が充満しているらしく煙で視界がはっきりとしない。見えない視界だったが家主がBチームに気付き笑っているのは分かった。
「クックックッ。とうとうやって来ましたね?神の御子よ。」
天を仰ぐように広げられた両手は下されることなく、一歩も動かず首だけで後ろにいたタケルとジョシュを見ながら笑った。そして再び首を元に戻すと今度は広げていた手をすり合わせながら胸元まで降ろしていき再び扉の前で聞こえていたくらいの大声で叫びだした。
「神よ!ありがとうございます!とうとう神が怯えながら毎日祈る私に御子をつかえてくださったんですね!とうとう!とうとう私はあなたの元へ行くことを許されたんですね!我が全身をきよめまいりましょう貴方の元へ。おおなんて嬉しい日なのでしょう。今日はきっと素晴らしい記念日になること間違いなしで」
ドンという音と共に家主は倒れ大声は聞こえなくなった。
「気味わりぃっていってんだろ。御子なんてどこにいんだよ」
「タケル…やりすぎだ」
「なーに言ってんだ一発で仕留めたじゃねーか。」
「運ぶのが面倒」
「エレベーターにつんどいて後で回収しようぜ。」
『神楽さん、保護はしたんですけどタケルが気絶させました』
「お、おいチクんなや!」
『タケル?説得して欲しいって言ったよね?後で少し話そうか。』
「ゲッ」
『神楽さーん。でも話が通用する相手じゃなかったんですよ。』
『話は後で聞くよ。とりあえず対象はエレベーターに乗せておいて。後は僕の方で見ておくから』
『了解です。』
「こいつで先にお前を眠らせときゃ良かったぜ」
神楽に報告された苛立ちをぶつけられた目張りされていた窓はすっかり粉々に砕けてしまった。
「タケル!こんなに燃えてるのに窓開けるってどういうつもり?蝋燭倒したいの?」
慌てて自分の力で蝋燭の火を消したジョシュがタケルに注意したがタケルは悪びれる様子もなくベッドルームを蹴破るとさっさと次の部屋に向かって行ってしまった。
「てめーの力だったら余裕だろうが。そのくらいやりやがれ。」
先程まで煙で充満した部屋は蝋燭が消えたことと窓が解放的になったことで部屋が見渡せるようになっていた。空気が澄んだことはいいことばかりではなく二人は見たくもない部屋の現状が見えてしまった。部屋中には血が飛び散っており壁紙には多くのひっかき傷が残されていたのだ。先程先行してタケルが蹴破った部屋はもっと酷い惨状でそれをみたタケルが早々に切り上げ次の部屋に行くぞと言ったのはタケルなりの気遣いだった。
『神楽さん』
『あぁ分かっている。警察には後で通報しておくよ。』
『お願いします。』
宗教とは不思議なものだ。人の心の安定剤にもなり多くの人を助けるが一度極めてしまうと人の心を壊すこともある。彼は病に苦しみ神に助けを求めているうちに悪い方向へと進んでしまったんだろう。もしくは…。
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