第19話 初任務⑦
燃えている街を見下ろしながら自分のしていることの残酷さに怖くなった。幻とは言えそれをしらないこの街の人達は私が起こした火災に怯え逃げているのだから。私の力はこんなに恐ろしいものだったのかと思わざるおえない。
「ニール大丈夫か?」
心配そうに顔を覗き込んだアレックスに『大丈夫』とニーナは答えたがニーナの顔は真っ青だった。アレックスはニーナに聞こえないように少し離れた距離に行ってブレスレットで神楽と直通の通話を利用して指示を仰いだ。
『隊長見えていますか?』
『うん、言いたいことは分かってるよ。だがここはニールに耐えてもらうしかないんだ。今後必ず通らなければいけない道だからね。こういった場面は今後何度も起こるんだ。それはもしかしたらもっと残酷な状況下になるかもしれない…。アレックスも入隊から長いからそれは分るだろう。』
神楽のモニターには隊員の全ての隊長が把握できるようにピアスやブレスレットからデータが送られてくる。今現在ニーナの心拍はそのモニターからも異常なほどの心拍で表示され、ニーナの元につけていたドローンからも明らかにニーナの様子はおかしく自分の能力への恐れの色が伺える。だが実際に相手に遭遇していない状況下で対応できないようであれば今後対人となった時確実に隊にとって足手まといとなりチームを危険にさらすだろう。ニーナの様子は分かっているが神楽は目をつぶりアレックスに継続指示をだした。そう、別にもっと単純な任務もいくらでもあったはずなのにあえて初任務にこの激務を選んだのには理由がある。
『そういう辛い現場で耐えられないのであれば残念だけど今後僕たちと一緒に働いていく事はきっとできないだろう。ニールには極力まだ自分に選択肢が残ってるうちに判断材料を経験してもらいたい。先がなくなった人間が無理にいて士気を下げられては我々も迷惑だからね。』
「…そうですね。」
神楽の答えを聞きアレックスは心配そうにニールを見ながらも声をかけることなく自分のポジションに戻った。今思えばもしニールがいなくなっても対処できるチーム編成だった。単独行動も多い中あえて今回二人で追わせたのにもそういう理由があるんだろう。
『一般人の避難を確認。入ります。』
『気を付けて』
アナスタシア・マクレーンのAチームが出動したビルは12階建てだったためジョシュ・タケルのBチームよりも早く避難が完了しアナスタシアから突入の発報があった。
いよいよ作戦が始まる。
AチームBチームが突入する建物はニーナとアレックスが入った建物とは違いまだ大勢の人が暮している。そのためエレベーターや階段もメンテナンスが行き届いており逃走経路を見張るドローンは必須だった。アナスタシアの突入の発報を聞いた神楽が2台を階段に向かわせ各エレベーターに2台ずつドローンを配備した。アナスタシアとマクレーンと一緒に行動するように2台配置はしているが機動力のある二人に付けるこの2台は殆ど役割もなく役割があっても熱完治と追尾機能のみだろう。
Aチームが1Fごとに確認し発報ということを繰返し3Fに入ろうとしたところ、ようやく避難が終わったジョシュ・タケルのBチームが動き出した。
『一般人避難完了。突入します。』
『了解、焦らなくていい確実にいこう。』
Bチームにも同様にドローンが配備されこちらも1Fごとに確認し発報といった同じ手順にしたがっていった。Bチームの1F完了の発報があった際に同じタイミングでAチームも4Fに突入した。Aチームが非常階段を開くと今までとは違う光景に緊張が走った。1-3階までずっと絞められていた扉ばかりだったのにも関わらずこの階の扉は二部屋空いている。
『4F 閉じた扉を確認。二か所あります。』
『一か所ずつ確認するんだ。もう一か所には別にハイホーを向かわせる』
『了解、408を確認します。』
『了解、それでは419扉前にて待機させておくよ。』
『了解、完了し次第419に向かいます。』
ピッキングで鍵をこじ開けとってをそっと握り扉を開いたが人気のなくなった場所で開く扉の音は不気味に響いた。二人は極力音をたてないように気を付けて開けたがそれでも錆びついた扉は音を発し不気味さを演出した。手前の部屋から確認していき無言で中指と人差し指で安全を確認する。バスからみていきトイレそしてリビングキッチンを見たが誰もおらず残すところあとベッドルームとなった。今までと同じようにドアを静かに蹴り銃を部屋に向けるがやはり最後の部屋も誰もいなかった。
『408clear 419に向かいます。』
『了解、今のところ動きはないよ。』
『了解』
419の扉は408同様不気味に音を立てて開いた。扉があいた途端いままで壁に遮断されていた熱感知センサーが反応して神楽が二人に待ったをかけた。
『感染者を確認。一人だよ。二人とも気を付けて進んで。』
神楽の発報を聞き二人に緊張がはしった。扉が開いた音が聞こえたのかそれまで静かだった部屋から鳴き声が聞こえた。リビングから鳴き声は響いているが408同様に手前の部屋から一部屋ずつ確認をしてようやくリビングにたどり着いた。
『リビングルームで確認しました』
『了解、ベッドルームはこっちでみてるよ』
リビングのソファーでうずくまる一人の女性を発見した。女性はリビング前のソファに座っておりアナスタシアやアレックスの姿を見ると泣き崩れた。
「せっ、政府の人ですよね?助けて…助けてください。」
「あなたは」
「感染してます。ユーリ・オートメンと言います。私…私、看護師だったのでこの病気のことは人一倍分かっているつもりです。覚悟して仕事してたはずなのに…」
「ユーリさん落ち着いて。」
「人とは絶対接触してません。ただ…ただ怖くて…検査に行けなかっただけなのに…。十分な備蓄があるしこのままここで死ぬつもりだったのに。まさかこんなことに巻き込まれるなんて…。避難したくても感染している私が避難したら皆にうつしちゃう…。」
そう涙ながらに語った彼女の隣にアナスタシアは座り背中をさすって落ち着かせた。彼女の頬は痩せこけ熱が高いのだろう視界も朦朧としているようだ。
「大丈夫、大丈夫よ。人にうつらないように努力してくれたのね、ありがとう。でも症状も悪化してきているしこのままここにいては今よりもっと悪化してしまうわ。一緒に着てきちんと治療した方があなたのためにもいいの。きっと呼吸もいまよりずっとしやすくなるわ。」
「でも大勢外に出ているのに私が動いたら皆に迷惑が。」
「大丈夫よ。このビル内は火事でもう皆の避難も終わってるからだれかにうつしてしまう危険性もないわ。だから安心して。」
「私…私ようやくここから出られる…」
「そう一緒にここをでましょうね。あそこにドローンが飛んでいるのが見える?あのドローンも仲間が動かしてるの。私たちはまだ逃げ遅れた人がいないか確認する必要があるから残るけど、あのドローンについて行ってもらえるかしら?私たちの仲間が私たちが乗ってきた車まで案内してくれるわ。」
神楽は先程まで飛ばしていたドローンを静かにユーリの膝に着地させ危険がないことを伝えた。恐る恐るユーリは顔を覆っていた手でドローンに触れ頷いた。
「1時間ほど車で待たせちゃうけど」
「大丈夫です。よろしくお願いいたします。」
泣いていたユーリ涙を拭いアナスタシアそしてドローンに頭を下げた。ユーリがその場を出るのを確認すると残りの一部屋をチェックしAチームは別階へと進んだ。
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