第17話 初任務⑤
私とアナスタシアがミーティングルームに到着したときにはもうチーム全員が席についており朝食の支度も全て揃っていて食事が始まっていた。
「早くしねーと冷めるぞ」
「私の残しててくれてるわよね!?」
「誰が残すのさ、遅れてきた方が悪いんじゃない?」
「ニジェールそれ僕のだ」
「この子はいつからこんな口答えが多くなったのかしら?お姉さんが絞めてあげようかしら?」
「キモッ!近寄んなし!」
「キモイとはなによ!?私に触られて喜ぶ人間はいてもそんな言い方する人はあなたぐらいよ!」
「僕は男に惚れる趣味はないっての!」
「言ったわね!!あのね、私は性別は男でも心はれっきとした女の子なんだから!」
「自分で女の子っていうなよな!言ってもおばさんだろ!」
「20代の女性に向かっておばさんとはなによ!」
「僕からみたら十分おばさんだっての!」
「ニール気にせず食べた方がいいぞ」
私が座った席はタケルとマクレーンの間だった。タケルは少し遠くにあったバケットとフィッシュ&チップスを引き寄せて私に薦めた。パンに挟むと美味しいんだって。
タケルに薦められたパンを頬張りながらアナスタシアとニジェールの言い争いを見ていたらこっちに火の粉が飛んできて二人にすごい勢いで睨まれた。
「何とかいってやんなさいニール!」
「このおばさんになんか言ってやれよ!」
そう詰め寄られた私は口いっぱいに頬張った状態で、睨まれ噛むことも飲み込むことも出来ず制止した。二人に睨まれながら素早く口の中のものを消化すると、一点気になっていたことが解消されたことを思い出した。
「アナスタシアさんって男性だったんですね」
「「は!?」」
「いまそれをいう??あんた弟子クビ!!クビクビクビ!!私が気にしてるって知りながら男扱いするなんてひどすぎるわ!もう最低!!」
「やりやがったよコイツ!ククッ!うけるー!新人にもいじられるって最高だわ」
「えっ!?違っ!?ずっと女性だと思ってて…いやえっと…ここ皆男性だって」
「また男っていったぁぁぁぁ」
泣き出すアナスタシアがニールがいじめたと神楽の後ろに隠れたところで、ようやく食事が終わったマクレーンが箸をおき口をはさんだ。
「それで、今日の打ち合わせはしないんスか?」
「そうだね、食べながら話していこうか」
神楽の言葉を合図にアナスタシアやニジェールも大人しく席に戻り、その様子を呆然と見ていた私だけが取り残されたかのように立ち尽くした。
「ニール座りなさい」
「は、はい」
タケルがこそっと『いつもこうだから気にすんな』と神楽の目を盗んで教えてくれた。先程まで言い争っていたアナスタシアは大人しく目的のプティングを食べニジェールは食べ終わったのか両手を頭の後ろで組んで座った。
「今日の任務は関東池袋地区。分かっているかと思うがこの地区はビルが立ち並ぶ場所で視覚がかなり多い。ハイホーで町中捜索する予定だがそれにも限界があるから君たちにも今回捜索を手伝ってもらうことになるだろう。2人1組でチームを組んでお互い確認し合う連携を崩さないように。そして今回だが決して実弾は使わないように。」
「実弾がなかったら障害が」
「そうだな。そしてあの場所は今までのことがあるから僕たちに好戦的姿勢だということも分かっている。ただでさえ悪い印象が強く残っている土地柄で威嚇とは言え実弾を使ったらどうなる。抑えがきかなくなるだけじゃすまない。だからこそ今回は僕らの出番なんだ。」
「だからこそってどういう意味ですか?」
「ニール、君の能力を皆に話してもいいかな?」
「?どうぞ、役にはたちませんけど。」
「ニールはもっと自己評価を高くしていいと思うよ。」
「さっきの話とニールがなんで関係してくるのさ」
「そうだね、ニールは幻を見せることができるんだよ。それも結構広範囲の。」
「幻?くだらない、こっちは現実を生きてんだけど夢にうつつをぬかす人間を現場に出していいんですか神楽さん?」
「夢にうつつをぬかしている人間であればここに残ってもらった方がいいだろうね」
「ほらね」
「ぬかしてる人間であれば」
「?」
「僕もまだ見てないんだ。ニール見せてもらってもいいかな?」
「どういったものをつくればいいでしょうか?」
「君の好きなものを。」
そう言われ思い浮かべたのはいつか行ってみたいと思っていた海だった。広々と広がる真っ青の水に暖かな砂浜テレビでしか見たことがなかったがいつかはここに行ってみたい。先程あった壁はどこにもなく、自分たちが座っていたテーブや椅子ごと海辺に来たように景色が広がった。
「素敵ね」
うっとりしたアナスタシアは潮が満ち引きする海に近寄り実際に波に触れ水だと分かると靴を脱ぎ両足を水に沈めた。
「こんな特技があるんならもっと早く言えよな」
「流石だな。予想以上」
暑そうに太陽を見上げながらタケルは椅子から立ち上がり太陽に手をかざし、もう一方の隣に座ってたマクレーンは初めて能力を知ったとは思えないほど落ち着いた様子で素直にほめた。
「もうこれは武器もいらないんじゃないのか?」
切なそうにさっきまで銃が置いてあっただろう扉の近くを見ながらいうアレックスの肩をアナスタシアがなでながら慰めた。アナスタシアはマシンガンのことを思い出したようで今朝私から受け取った椅子下に置いてあるマシンガンを持ってきてアレックスの膝の上に置いた。
「気温まで再現できるのか」
「…」
興味なさそうにしていたジョシュは驚きを隠せず、先程まで悪態づいていたニジェールはくだらないとそっぽを向いた。
「うんニールもういいよ、皆にも分かってもらった通り今回の任務の要はこの能力にしようと思う。ニールのデビューだし華々しく飾ろうじゃないか。」
消えてしまった海辺を残念そうにしながらも、皆は納得したように神楽の次の言葉を待った。
「ちょっとしたドッキリだね。皆はもしビル街が密集しているところで大火災が起きたらどうする?」
「そりゃ逃げるだろうね」
「そう、逃げるだろう。ただそこに逃げない人間もいるそれは?マクレーン」
「感染者か」
「そう自分が政府で検査をしていないことが分かっている感染者は追われていることが分かっているから政府か過激派が自分をあぶりだそうと火をつけたと思うだろうね。彼がとる行動とは?ジョシュ」
「1.大勢にまぎれて自分も逃げる 2.検問で見つかる危険性を考えて検査される前に人気のない所に逃げる」
「そうそう。あとは人質をとってくることも考えられるけど、まぁ本人も逃げたいだけで悪気はないからそれは考えにくいだろうね。ということでニールには火災の演出をビル屋上からやってもらって守りをアレックスにお願いするよ。もちろん屋上までは自力で行ってもらわなきゃだから二人とも絶対気付かれないよう注意するように。他の皆はアナスタシア・マクレーンチームとジョシュ・タケルチームでこことここにいってもらう。おそらくこの二棟のどちらかにいるはずだ。対象は5人内2人は身内らしく常に一緒に行動しているようだ。」
テーブルに映し出されたマップにバツ印とルートを描きこみながら各々に指示を出すと地図をスクロールで周辺のマップごとブレスレットに送った。私のブレスレットにも先程の棟の位置が記されており解散場所からのルートが点線で描かれていた。
「え?僕は?」
「ニジェールはお休み。なんでか分かるよね?」
「なんだよそれ!?意味分かんない。なんで僕だけ罰受けなきゃいけないわけ!?分かった!ニールが入ったから人数があまってそのせいで外されたんでしょ!?」
「ニジェールいいかげんにしろ」
アレックスが制止するもニジェールの悪態はとまらない。
「入りたてのニールよりも僕の方が役に立てるでしょ!?それにこんな新人を連れて行ったら逆に危険だって!うっかり打ち殺され」
「ニジェール」
笑顔のままだとしても神楽が怒っているのは皆にも分かるようだ。それはニジェールも同じで先程アレックスが制止したときは無視をして文句を言い続けていたがピタリと話をやめた。
「今日は教会全体の掃除でもしてもらおうか」
まだ文句をいいたいようでニジェールは口を開きかけたが諦めて開いた口を閉じた。どうやら先程までよりも罰が重くなってしまったようだ。
「話した通り今回はニールメインの任務となる。ニールの能力が必要だからニジェール以外にも納得がいかない者がいれば今回は降りてもらって構わないから退出してくれ。ニジェールも退出して掃除を始めないと今日中に終わらないと思うんだが。」
納得がいかないようにニジェールは椅子を引きずり立ち上がると言われた通りミーティングルームから退出し教会へ向かった。そんなニジェールの後を追うものは一人もいなかった。
「さて、残ってくれたものは納得してくれたということだろうからこのまま話を続けるよ。ニールとアレックス以外の行動はビルの下から地道に1Fずつ回ってもらうことになるだろう。ハイホーで階段とエレベーターの監視および外から部屋も監視するけれど一部屋ずつ見るのは二人にお願いするよ。まぁ扉が空いている部屋は見なくてもいいかな?遭遇した場合はいつも通り交渉から始めてくれ。交渉が難航するようだったら麻酔弾で強硬手段に出てもらうけどそこは各自の判断に任せるよ。ただ扉の解錠に必要な破壊以外は破壊は慎んでほしい。一つも壊さないこと。昨日までバスで説明する予定だったけど急遽ニールとアレックスが先行で現地に行ってもらうことになったからここで説明した。もし分からないことや判断に困ることがあれば発報してくれ。アレックス、ニールにピアスとブレスの使い方を向こうで説明しておいて。」
打ち合わせが終わると私とアレックスは神楽の呼んだタクシーに乗り関東池袋地区まで向かった。
迎えにきたタクシーは何度も任務の時に利用しているようでアレックスが抱えて持ってきた何丁もの銃をトランクに乗せながら嫌な顔ひとつせず平然と『今回もお急ぎですね』とアレックスに笑顔を見せた。
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