第16話 初任務④
練習場に入ると入口に近い場所でタケルとマクレーンが組み手を行っていた。彼らの汗ばんだ姿をみるともう結構な時間組み手を行っているようだ。
「やっぱりいるね。」
「こんな早くから練習するんですね」
「あぁ出動前は皆気持ちが高ぶるみたいで、各々がこういうトレーニングをしているんだ。さて、邪魔しないように僕たちは射的場に行こうか。」
「分りました。」
神楽は笑いながら二人の横を邪魔しないよう声をかけず通り抜けると奥の射的場に向かった。先程の場所とは異なり閉鎖空間にある射的場ではアナスタシアが銃の調整を行っているようで一発撃っては銃を磨きという動作を繰返していた。
アナスタシアが調整をするために何丁もある銃を1本ずつ手に取りながら打っているのは人型の的で彼女は照準を合わせて何度もその的に打ち込んだ。アナスタシアはかなり腕が良いようで打たれた照準は外すことなく頭部に集中しており枠外は1つもなかった。
「調子はどうだい?」
「おはようございます神座さん!先日購入したこの1本だけまだ調子が悪いみたいです。まだ手に馴染んでないのかな?今日はこの子は外したほうがよさそうですね。ニールくんおはよう!ここに来たということは練習しに来たんだよね?一緒にやろうか。」
「俺も使っていいんですか?」
「もちろん。使う銃は持ってきてる?」
「はい。神楽さんが練習場に連れていってくれると言っていたので、念のために持ってきてます。」
そう返事をしながら背中に背負っていたマシンガンを取り出した。ニーナが取り出したマシンガンを見るとアナスタシアは唖然としてマシンガンを指差しながら普段より1オクターブ高い声で叫んだ。
「誰をそんなものを新人に渡したの!?絶対アレックスね!あいつの趣味に合わせてたらキリがないわよ! こういう変なものを渡された時は躊躇なく断っていいんだからね!」
「どういう…」
「アレックスには僕から伝えとくよ。ニール、実はアレックスは銃のコレクターなんだ。銃自身も彼の趣味だから武器庫の半分以上を彼のコレクションで埋め尽くされているし武器を選んでいると彼の一押しの最新の武器を試してみるように勧められる。まぁ武器にかかる予算が減って僕としては助かるけど…」
「神楽さん!だからアレックスが調子に乗るんですよ!こんな大きいものは現場では使えないって何度アレックスに言ったら分かるのかな?もうこれは車に装備させて使うしか使い道はないんじゃないかな?あのむっつりメガネがまた勧めてくる前にさっさと車に取り付けちゃった方が良いかも…」
行き場を失ったマシンガンをニーナは両手で抱えながら二人の顔を交互に見た。
やっぱりこのマシンガンは標準装備じゃなかったんだ。今までテレビの中でしか見たことがなかった銃に対する私の常識は、軍隊が大きい銃をつかって一般人はポケットに入る程度の大きさのものだった。だから昨晩アレックスから目立つこのマシンガンを渡された時は驚いたが、打たないにしても目立つだけで効果があるというアレックスの解説に実際はそういう認識なんだと考えを改めた。だが、どうやらそっちが間違いのようだ。現にアナスタシアが使っている銃たちはどれも小型のもので一番大きいサイズのものでも肩に乗せられる程度のサイズなのだ。
「目立った方がいいって聞いたんですけど」
「あぁ、それは確かにね。武器がないと分かると軽視されがちだし標的にもなりやすい。だから目に見える分かりやすさは確かに必要なんだ。でもこれはやりすぎかな?」
「そうそう、目立つも目立つで動けないような大きいものを持ってたら逆に標的にされるわ!実際はこの位が打倒なところよ!ったく、しょうがないわね。今日は私の銃を使いなさい。大きさは大きくてもせいぜいこのくらい。使い方はわかる?」
「武器はナイフしか使ったことがないので全く分かりません。なので正確に照準を定めなくても打つことが出来る武器の方がいいって言われました。」
「あのクソメガネのフォローなんかしなくていいのよ。まだ使ったことがなくて正確には頭に当たらないのは仕方のないことだし私の師匠はそういう時は当たりそうな距離まで行ってから打てと言っていたわ。ただ確かに遠距離でも的に当たるのは大事なことだから少しずつでも練習していきましょう。とりあえず今日はこの銃使ってみて。」
そう渡された銃は肩に乗せる程度のサイズがあるものだったが先程の物と比べると格段に軽かった。おそらくあのマシンガンと比べれば大抵の銃は軽く感じるだろうけど。
「じゃあ早速少し打ってみて。ここを引いてあの的に向かって打てばいいから。おっと渡し忘れてたわ!打つときはこの耳当てを使ったほうがいいわ。屋外と比べると閉鎖環境だからかなり音が響くのよ。」
アナスタシアに銃の持ち方を指導されながら言われた通り目の前にある的に向かって銃を使った。先程までの頭部に集中していた完璧な的に初めて頭部以外の穴が空いた。アナスタシアはそれでも良い感じとほめてくれた。
「大丈夫よ!最初はみんなそんな感じだから」
先程まで私に添えていたアナスタシアの手を離し今度は一人でやってみるように言われた。先程アナスタシアに言われたことを思い出しながら自分の手を置き、私が意識するのは凹凸が重なる位置。この凹凸が重なる位置に人型の的が来るように意識をすればいいだけ。一人で銃を使うという緊張に高鳴る鼓動を抑えるために深呼吸をしてから的を打った。
「凄いじゃない!」
打たれた場所は頭部ではなかったが人型の的の中にヒットした。この調子で何度か練習してみてと言われ、先程までアナスタシアが使っていて教えてもらうために私が入ったこの場所を譲ってもらった。折角譲ってもらったからにはというプレッシャーもあったのだろうか?いや、最初のがビギナーズラックだったんだ。そう言わんばかりにそれから先の穴はどれも人型の外となってしまった。
「へたくそに打たせてたら弾がもったいないよ。」
「そんなこと言わないの!誰にだって初めてはあるでしょう!」
先程まで私と神楽とアナスタシアだけだった射的場に来たのはニジェールだった。ニジェールは私の隣の射的場に入り、持ってきた銃をテーブルに置いた。置かれた銃は二丁でどれも小型ものだった。その小型の銃を手に取るとニジェールは片手で長時間的を見ることなくいとも簡単に頭部を貫いた。おろしたての人型の紙には見事な初発の穴が開いた。
「最初からうまかった僕にはその気持ちは全くわからないけどね。昔の人は缶や瓶を並べて人前で打ったらしいけど君の場合そんなことをやったら何死人が出ることやら。」
「そうですよね。やっぱり私も今まで使い慣れてきたナイフで身も身を守った方が良いかもしれないです。」
「ニジェールの言う事は気にしないで。アレックスは確かに銃馬鹿だけど必要のない人には銃はすすめないんだ。どれも彼の可愛い子供たちだからね。アレックスがニールに自分の銃を薦めたのはニールの能力を把握して今後必要不可欠になってくるからだと思う。
確かにナイフでも身を守ることができるかもしれないけど、それはあくまで自分の身を守ることでもし仲間に何かあった場合は君の場合はどうすることで対処できると思う?そういう時に銃は必要になってくるんだ。それがたとえ的に当たらないとしても銃の音が聞こえるだけで人と言うものは自然と緊張して一瞬の間があくものだからね。もちろん当たった方が良いけど、そういう使い方もあるんだよ。今日実際に現場に行って自分でも体験した方が良い。」
「そうよ!武器なんて一通り使えたほうがいいに決まってるし勉強したことが無駄になるなんて事は滅多にないんだからやれるうちにやっておきなさい!ニジェールに言われたことが悔しいんだったら、ニジェールを抜く位腕を磨いて逆に後悔させてやるという勢いでいきなさい!私も手伝うから」
神楽そしてアナスタシアに励まされその後ミーティングが始まるまで時を忘れたかのようにひたすら的を打っていた。紙を変えなかった的にはもういくつもの穴があいており紙の一部がブラブラと下に落ちかけていた。
ニジェールはというと気付かない間に姿を消したらしくミーティングに向かうころにはとなりの射的場は無人になっていた。
紙を回収しながら今日のアドバイスをするとアナスタシアは先程までの感覚を忘れないように言い、神楽の許可もでたから銃の先生となったことを告げた。先生からの最初の指示は今日のところは銃は所持していても現場では威嚇射撃のみ行うようにとのことだ。
今回は威嚇射撃のみだということだが今後人を打つことがあるのだと思うと銃を握る自分の手が汗ばんだ。その手をアナスタシアに気付かれないように片手ずつ持ち替え手をぬぐいパーカーのフードを深くかぶりなおした。
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