第15話 初任務③
結局昨晩は眠れず部屋を出てミーティングルームまで行った。
午前3時 こんな時間には絶対誰もいないだろうとTシャツのみの軽装で普段着ている分厚いパーカーは着なかった。
眠れなかったからだろうか?
半分夢のなかのように頭はぼんやりとしていて靄がかかった状態だった。
昨晩食事をしたテーブルにそっと触り座った席に腰を下す。
誰もいない空間でこのミーティングルームを見るのはもちろん初めてで、まだ来たばかりの人間が一人でうろうろしていいのだろうかという緊張もあった。
昨日は人がいてあまりよく見えていなかったが私の席からは暖炉が見えた。
季節的に今使っていない暖炉は蓋がされオブジェとなっているが火がはいったら暖かな空間となるだろう。思えばこの場所はミーティングルームと言いつつ何処か家庭的な空間となっている。
隊の写真はファミリー写真さながらに写真たてに入れられ飾られているしくつろぐソファやテレビも備わっていて洋風の茶の間と言ってもいいだろう。
そんな暖かな空気が流れるミーティングルームを見渡しながらぼんやりと昨日の出来事を思い出した。
昨日は今まで家の中でその日暮らしの生活をしていた自分には考えられないほどの本当に沢山の出来事があった。
久しぶりに会った父と初めて自分で働くという選択肢をくれた神楽と出会いこの隊の人と出会い会った人だけでも人生最高記録だ。
まさか兄は私が政府機関で働くとは夢にも思わなかっただろうなぁと笑みがこぼれた。
私が降りてきたことに気づいたのかミーティングルーム横にある部屋から神楽が出てきた。
「おはよう。」
「おはようございます」
「朝早いね。流石にまだ皆はここには集まらないと思うけどもしかしたら何人かは練習場に行ってるかもしれないからよかったら案内しようか?」
そういう神楽の服装は私とは異なり寝起きと言うよりもう既に人前に出る準備ができているといった恰好だった。
「着替えてきます!」
慌ててその場を去った私には聞こえなかったが、慌てて走り去る私を見ながら神楽は驚いた表情浮かべていた。
「妹さん?」
フルムダンベール氏の子供は2人いた。
彼の子供たちは双子で今回感染者だと分かったのは兄の方だった。
数ヶ月前より革命家として名を挙げてきた兄のニールは革命家の中でも異端児で、国からも目をつけられていた。
だからもし昨日までに薬を飲んでいたとしてもホワイトキューブで働く事は叶わなかっただろう。
私としても革命家の異端児を入れたくはないという意見は同じで、いくら自分のチームは個性が強い人間や国に対しての愛国心といったものは薄い人間が揃っているといっても受け入れがたかった。
別に異端児だからいけないというわけではない。
革命家だからだ。
彼らは自らの主張のために手段を択ばない。
それによって何度となく一般の人間を巻き込む騒動がおこっただろうか。彼らの正義の為に数え切れないほど多い被害が出ている。
彼らはそれおも国の責任とし、いくら被害がでたとしても自分たちはあくまで正義のために戦っているのだから民間が協力するのは至極当然なことであると公言していた。
正義のためには悪も時に必要だと確かに思うが全く悪だと自覚していない彼らを僕はどうしても受け入れられなかった。
何故自分の意見を抑えてまで革命家の彼をチームに入れたのかというと、現在のチームの人間の1人から強く推奨されたからだ。
どの人間からどういう風に推奨されたかはここでは割愛するが彼のあまりの説得に心を打たれ革命家であったニールを自分のチームに入れることを前向きに検討するということとなった。
『会ってみてもし僕が駄目だと思ったらその時は力になれないけれどいいかな?』そう聞くと彼は頷き前向きに検討してくれるだけで十分だと答えた。
チームにも紹介し入った時に反発がないように手を打っていたがそれはあくまで事前準備で彼を誘うことを決めたのは会ってからだった。
昨日部下の頼みといえ『これからあの噂に聞く革命家と会うのか』と重い気持ちでエレベーターにのり後輩であるフルムダンベール氏と彼の息子の前に現れた。
セキュリティに止められつつ自分の方に向かってくる僕を見てフルムダンベール氏はかなり訝し気に顔をしかめたが彼もセキュリティに私は止められないと分かっており私の同席を嫌々ながら許可した。
気が重かった革命家との初めての出会いはあっけないものだった。
フルムダンベール氏と似ており彼の息子もまた頑固そうな人間だったが革命家独特の威圧的な空気が全くない。
そして革命家であればこういった席ではフードを脱ぎ堂々と自分の意見を言いそうなものだが横に座る彼は何故かかたくなにそれを拒み口数も殆どなかった。
この行動を見ているとどうしても彼が革命家だとは思えない。
あまりの覇気のなさに彼の噂はすべて偶像で実際の彼は全くの別人なのではないだろうか?とさえ思わせた。
感情を見せた彼に対して断罪することもできるよう、あえて彼をいらだたせる行動や会話をしたのだが結果は変わったことに興味を示す彼と他愛もない話に花を咲かせてしまった。
それまでは部下の頼みで嫌々会いに来ただけで実際は部下に無理だったという答えまで用意していたのだが、妙な話だ。
正当な理由があれば頼んできたチームの1人にもきちんとした説明がつくと言うものだが実際はどうだっただろうか?くだらない話にもうなずきおとなしく言われた通りに行動している様子はまるでかりてきた猫のようだ。
ふとテーブルを見ると占い機を使ったであろう形跡が目に入り、この男2人で占いで遊んだ姿を想像してしまった。占い機の痕跡がみられたことに気付いたフルムダンベール氏は明後日の方向を見て胡麻化したがもう駄目だ、今までの革命家とは異なる彼の性格を目のあたりにして彼に対する好奇心が抑えられない。
気づいたら途中で席を立つ予定が思いのほか長居してしまい挙句彼を勧誘していてエレベーターで彼を待っている。
手持ち無沙汰で手にとったタブレットを眺めながら先程の彼らのことを思い出し1人で笑ってしまった。
だがそうか、妹の方だったとすれば納得ができる。
フルムダンベール氏と言う人間はかなり真面目な人間で彼が妻と子供たちを政府から隠していたと言う事は私も本当に驚きだった。
自分の後輩である彼が結婚していたと言うのは知っていたがが彼が殆ど家に帰らないというのは周知の事実だったし、帰らない日々を見ると離婚したのだろうと予想がついた。
そんな彼に妻との間に子供が二人もいただなんてだれが想像できただろうか?
彼の息子は革命家だというのは分かっているが娘は一体どういう人物なんだろうか?
私が話したくだらない話にうなずき歴史にも関心があるようだ。
そして自分では隠しているのだろうけれど、とりあえずこっそりとなんでも触って試してみるような好奇心もかなり強い人間に感じる。
フルムダンベール氏やおそらく兄とは異なりはっきりと他人に意見する性格ではないようだが、彼女の目にはどこか強い信念を感じる。
おそらくフルムダンベール氏よりも強い何かだ。
そしてその信念に関係しているのかは分からないが彼女は兄が施設に行きもう二度と今までの生活を送れないとわかっていて入れ替わったようだ。
私が出会った頃の彼女は全てをあきらめるような表情を浮かべていたしそれは間違いないだろう。
そんな彼女はおそらく自分の能力を使って偽装していたのだろう。兄として振る舞う彼女が女であると言うことを誰が気づいただろうか?僕も先程の姿を見るまでは気づきもしなかった。
なにより気になるのは昨晩アレックスから報告を受けた彼女の個性は幻覚によるものだと言う話だったが兄だけではなく妹までも感染者だったと言うことだろうか?
兄弟揃って感染を完治させたと言うことだろうか?
いや母子揃ってか。今までに全く前例がない現象におそらく政府がこの事を気付いたら施設に行きと称し色々と検査されることに違いない。
今まで自分のチームには決して女性は入れなかったが、今回ニールと偽っていたとは言えその偽りに気付かなかった僕にも責任はあるし何より彼女に興味がある。
入れてしまった彼女の事はもう少しチームの人間として見ていこうと神楽は違った。
「お待たせしました。」
先程の服装とは異なり昨日来ていたような男の服装で現れた彼女は息を切る切らしながら二階からの階段を駆け降りてきた。
彼女に焦らなくて良いと声をかけ合流した彼女の歩くスピードに合わせて練習場へ向かった。
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