第7話 神楽

 黒服たちは私を席に座らせると彼らは父に頭を下げて下がった。

 黒服と父と私しか客がいない店内は静まり返っており、黒服たちは大分離れた場所のエレベーター前にある店内入口で並んで立った。


「父さん・・・久し」


「私用の話をする時間はない。何故薬を飲まないんだ?」


 父は自分の丸メガネを外しくもりをとるようにポケットチーフで拭きながら、私からの久しぶりの挨拶を打ち消した。


「薬?」


 何故薬を飲まないんだ?

 兄は薬を飲んで完治したはずだから薬は飲んでいるはずなのに、何故今更そんな問いをするのだろうか?


「そうだ。ホテルでだされただろう。」


「ホテルでは薬は全くでなかったけど」


 そう出ていないのだ。

 ホテルで出された食事はどれも普通の食事で特別薬やサプリメントなどは出されなかった。


「出されてないわけがないだろう。飲まないにしても子供じゃないのだから・・・」


 父は言葉の途中で話をやめ私の顔をじっくり見ながら自分の顎に手をあてた。

 じっくり見られて気恥ずかしくなった私は目線を反らしてテーブルの上に置いてあった球体型の置物に目線をうつした。

 これは一体なんだろうか?

 注文をとる機械ではなさそうだし上部の透明な部分からルーレットが見えるから賭けをする機械だろうか?でも小さいものでかけを?側面にはなにやら様々な星座が描かれているからこれは新型のルーレットマシンで星座はデザインだろうか。でもルーレットの玉はどうやっていれるのだろうか?それにこのレバーは一体


「なんでお前がここに・・・」


 私の注目は父からすっかりこの小さなルーレットとなっており父の小さな一言は私には聞こえなかった。父の言葉を無視したつもりはなかったが父は自分の言葉が届かなかったことにため息をつきポケットから出したコインを私が気になっていた機械に入れた。そしてレバーを引くと何やら小さい紙が出てきて上のルーレットが回りだした。身を乗り出して私はそれを眺めルーレットが止まるのをまったが止まっても特になにも起こらず父は出てきた紙を眺めてくしゃくしゃと丸めテーブルの端に寄せた。そして私の方にコインを一枚置き先程父が入れた場所とは異なる場所にコインを入れろとその場所を父はトントンとたたいた。私は父から渡されたコインを言われた場所に同じように機械に挿入し同じようにレバーを回した。そしてルーレットが止まると出てきた紙を広げ読んでみるとどうやらその機械は占いのようだった。


 凄い!凄い面白い!


 そのマシンを一周見渡すと描かれた星座の上に先程コインを入れたような場所が各々あっておそらく自分の星座にコインを入れるとこのルーレットを回せるんだろう。


 でも星座で運勢を決めるのは分かったけどこの項目の数字は?


「ニーナの今週の運勢はルーレットの数字の場所を見ると良い。」


「え!?」


「隠さなくてもいい。昔からこういうものに興味を持つのはお前ばかりでニールは一切こういったものに関心はなかったからな。」


「そう・・・なんだ」


「聞きたいことは沢山あるが・・・まぁいい。聞きたかった薬を飲まなかった理由は分かった。お前がニーナだとしたらあの薬は飲まなくて正解だ。感染もしていない人間が飲むには毒だからな。だが分かっているのか?兄の代わりにここにいるということはこのままでは施設送りになってしまうんだぞ。」


「そうなるだろうね」


 それは兄から入れ替わってほしいといれた時から覚悟していたことだった。

 兄は確かに完治していたがたとえ完治していたとしても国の施設で一通り検査する必要があったし、その検査後新しい居住区に移動する必要もあるのだ。当然兄の代わりとして来た私は兄の代理として一通り検査を受け新しい居住区に移動することが義務付けられる。


 義務付けられた検査施設や新しい居住区がどういうところかというのは公表されていないから不明だが私はその施設にはいるつもりでここにいる。


 カップのコーヒーをゆっくりと飲みながら父はどうすればいいのかと頭を悩ませているようだった。


「…ニールの病は完治しているだろう?」


「大分前に完治したって言ってた。」


「では何故ニールが来なかったんだ。データーだけ完治ということでは政府の人間は納得しないんだぞ。それに報告されている薬での完治でないと今回の伝染病は再発する危険性も症例として報告されている。再発の危険性がある状態では治ったように感じても一時的なもので完治したとは言えないんだぞ。」


「それでもニールにはやりたいことがあったんだから仕方ないよ」


「あぁ。それについても報告を受けている。お前たちは私の仕事を分かっててこういうことをしているんじゃないだろうな?」


 以前医師だった父は今では政府で働いている。

 母が病になる少し後の話だが、政府で働くようになった父は以前にも増して忙しくなり家に帰ってきても着替えを取りに寄るだけで酷い日は父の秘書が着替えをとりに来るという日々が続いた。


 政府機関で働く前まではあれだけ政府を嫌っていた父なのにこれだけ政府のために身を粉にして働くなんておかしな話だ。


「まぁいい。お前に言っても仕方のない話しだ。薬はもってきたもののどうしたものか…」


 父のポケットからその薬の入ったタブレットケースをとりだそうとしたときエレベーター付近が騒がしくなった。


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